Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2023.08.03

プレスリリース

ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

密に噛み合う仕組みを、金属の自己組織化を用いて模倣

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の澤田知久准教授らの研究チームは、タンパク質の材料となるペプチドによる「立体ジッパー」構造を人工構築することに初めて成功した。アルツハイマー病の原因物質とされているアミロイド線維は、ペプチドの作り出す平行型βシートの面と面を分子レベルで精密に張り合わせた「立体ジッパー」構造を生体内で形成し、強靭な線維を作り出す例として知られている。しかし、ペプチド同士は無秩序に凝集しようとするため、分子制御が難しく、これまで、こうしたジッパー構造を人工的に作ることは困難だった。

今回新たに、βシートの片面に金属イオンとの結合サイトを加え、金属イオンによる自己組織化を利用することで、人工的にペプチドの「立体ジッパー」構造を模倣し、合成することに成功した。また、この手法によりでき上がったジッパー構造を用いて、向かい合ったβシート間に働く、さまざまな側鎖の噛み合いや接触構造の高精度な観測も実現した。本成果で得られたさまざまな様式の「立体ジッパー」構造をもとに、アミロイド線維などの生体構造について理解を深めるとともに、強靭なペプチド性材料の創製に向けた応用が期待できる。

本研究成果は、東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の澤田知久准教授、東京大学の藤田誠卓越教授(分子科学研究所卓越教授兼任)、恒川英介大学院生(博士課程学生)、高エネルギー加速器研究機構の山田悠介研究機関講師、千田俊哉教授らによって行われ、「Journal of the American Chemical Society」に掲載された(オンライン版:7月12日)。