Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2023.08.03

プレスリリース

熱ショックタンパク質発現制御の新たな仕組みを20年ぶりに発見

熱ストレス応答制御因子を「作る前にストップをかける」調節機構

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの三輪つくみ研究員、田口英樹教授の研究グループは、熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン:Hsp)の一種がストレス応答の制御を行う新たな仕組みを20年ぶりに発見した。

細胞に熱などのストレスがかかると、凝集体と呼ばれるタンパク質でできたゴミが発生する。この凝集体は細胞内に蓄積すると毒性を示すため、どのような生物もタンパク質の凝集を抑制するシャペロンと呼ばれるタンパク質群を備えている。このシャペロンの一種である熱ショックタンパク質(Hsp)は、凝集体の代表的な発生要因である熱ストレスによって合成が促進される。Hspの不必要な合成を防ぐため、その合成を制御する因子の細胞内での存在量は厳密に調節されている。

研究グループは、大腸菌のHspの一種である低分子量Hspが、Hspの合成制御因子σ32の細胞内での存在量を制御する新たな仕組みを発見した。Hspが既に生産されたσ32の安定化や分解によってその存在量を調節する仕組みは、20年以上前の研究で知られていた。しかし今回発見された仕組みは、σ32の生産を抑制することで存在量を調節するもので、より迅速かつ厳密なσ32の存在量制御を可能にする。

この成果は、既に確立したと考えられていたσ32の制御研究に未知の領域が存在することを示すものであり、ストレス応答という生命に普遍的な現象に対する理解をさらに深めるものとも言える。研究成果は7月31日付の米国の学術誌「Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America(米国科学アカデミー紀要)」電子版に掲載された。