Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2024.01.16

プレスリリース

2種類の外側腕傍核のCckニューロンが担う水分欲求および塩分欲求をフィードバック制御する機構の解明

水と塩の摂取を適切に制御するための仕組み

東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニットの松田隆志特任助教、野田昌晴特任教授らの研究グループは、生物の水分欲求および塩分欲求を一過性に抑制する2種類の神経細胞を発見し、その働きを初めて明らかにした。水分および塩分を摂取したとき、後脳にある外側腕傍核(LPBN)においてコレシストキニン(Cck)遺伝子を発現する2種類の神経細胞(Cckニューロン)が活性化すること、その結果、水分・塩分欲求が一過性に抑制されることが分かった。水分摂取に応答するCckニューロンの集団は正中視索前核(MnPO)の抑制性神経細胞(GABAニューロン)の活動を、塩分摂取に応答する集団は腹側分界条床核(vBNST)のGABAニューロンの活動を、それぞれ一過性に活性化していることが分かった。

本研究グループでは、これまでに脳弓下器官(SFO)において体液の状態に応じて水分および塩分欲求の制御をつかさどる神経細胞(水ニューロンおよび塩ニューロン)を同定し、体液状態に応じてこれらの神経細胞が制御される詳細な仕組みを報告していた。SFOの水ニューロンはSFO内のCckニューロンによって制御されること、また、水ニューロンはMnPOに、塩ニューロンはvBNSTに連絡していることを明らかにしていた。今回の研究成果と併せて、水分欲求および塩分欲求の制御をつかさどるシグナルは、それぞれMnPOおよびvBNSTで集約・統合されること、SFOとLPBNからのシグナルは協調的に水分欲求を抑制していることが分かった。本研究成果は、生物が体液状態を生理的レベルに保つための仕組み(体液恒常性の維持機構)を明らかにしたものであり、水中毒や多飲症、食塩感受性高血圧症などの過剰な水分摂取や塩分摂取により誘発される疾患の発症機序解明に貢献するものと期待される。

本研究成果は米国の科学誌「Cell Reports(セル リポーツ)」に12月28日付けでオンライン掲載された。