Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2023.02.06

プレスリリース

タンパク質合成途上の新生鎖を網羅的に検出する手法の開発

細胞内でタンパク質ができつつある現場のスナップショットを取得可能に

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの丹羽達也助教、茶谷悠平特任助教、田口英樹教授、同大学 生命理工学院 生命理工学系の山川絢子大学院生、幸保明直大学院生のグループは、タンパク質合成途上の新生ペプチド鎖(新生鎖)を網羅的に検出・定量する実験系を考案し、細胞内でさまざまなタンパク質ができつつある現場のスナップショットを得ることに成功した。

細胞内の全てのタンパク質は、セントラルドグマにおける翻訳という過程を経て、リボソームで合成される。近年、リボソームで合成途上の新生鎖が、翻訳過程の単なる中間体であるだけでなく、さまざまな生命現象に関与することがわかってきている。また、タンパク質合成量の厳密な制御には、転写過程だけでなく翻訳過程での制御も重要であることも明らかになってきた。しかし、新生鎖の化学的な実体である細胞内のペプチジルtRNAのみを網羅的に濃縮して検出・同定することは困難であった。

本研究グループは、ペプチジルtRNAがペプチドとRNAの両方の性質を持つことを利用した濃縮法である「PETEOS法」を考案した。このPETEOS法により、濃縮したペプチジルtRNAを同定し、細胞内の翻訳状態の状態を大規模に捉えることを可能にした。さらに応用例として、大腸菌の熱ショック応答などでの翻訳状況の変化を確認することに成功した。

本研究で開発した手法は、原理的には真核生物を含めたさまざまな生物への展開が可能である。また近年では、リボソームでの翻訳異常が関与する疾患が多く見つかっており、本研究成果も将来的に医療や創薬の分野での貢献が期待できる。

本研究成果は、欧州Oxford Academicが発行する専門誌「Nucleic Acids Research」に1月30日に公開された。