Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2022.03.17

プレスリリース

セレン化スズ多結晶体の熱電変換性能を30倍に向上

高い電気伝導度と低い熱伝導率を両立

東京工業大学 物質理工学院 材料系のホ・シンイ大学院生(博士後期課程3年)、科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の片瀬貴義准教授、神谷利夫教授、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究グループは、セレン化スズ(SnSe)の多結晶体に、テルル(Te)を添加して焼成するだけの簡便なプロセスで、熱を電気エネルギーに変換する熱電変換の効率ZTを30倍に向上させることに成功した。

熱電変換材料の高性能化には、低い熱伝導率と、高い電気伝導度や高い熱起電力を両立させる必要がある。高性能な熱電変換材料として期待されているSnSeの実用化に向けて、多結晶体のZTを向上させる研究が盛んに進められているが、熱伝導率の低下には複雑な製造プロセスが必要だった。

本研究ではSnSe多結晶体に対し、Se2–と同価数のTe2–を添加して固溶体を作製するだけで、高い電気伝導度と低い熱伝導率を両立できることを発見し、量子計算によりその仕組みも解明した。SnSe結晶のSeがサイズの大きいTeで置換され、結合力の弱いSn—Te結合が形成。Teとの結合が切れて、Snが自然放出することにより、電気伝導を担う正孔が生成された結果、電気伝導度が10倍に向上することや、弱いSn—Te結合が熱の伝搬を阻害して熱伝導率を3分の1に低減できることが分かった。本成果は低炭素社会に向けた熱電変換材料の大幅な性能向上指針となることが期待される。

研究成果は「Advanced Science(アドバンスド サイエンス)」誌オンライン版に速報として3月8日付(現地時間)で掲載された。