Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2021.12.06

プレスリリース

金属と絶縁体を重ねて熱電変換電圧を10倍に増大

熱電変換材料の性能向上に向けた新たな指針

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の片瀬貴義准教授、神谷利夫教授、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究グループは、電気を良く通す酸化物のLaNiO3(ニッケル酸ランタン)を、電気を通さない酸化物のLaAlO3(アルミン酸ランタン)で人工的に挟み込むことによって、熱を電気に変える熱電変換の起電力を10倍に増大させることに成功した。

熱電変換材料は、温度差を与えると発電し、逆に電気を流すと温度差を発生するという性質を持つことから、電子機器の発電素子や小型冷蔵庫などの冷却機器への利用が期待されている。ただし、実用化には小さな温度差から大きな電圧を発生させる性質を持つ熱電変換材料が必要であり、これまで高温で高い性能を出す熱電変換材料は数多く開発されてきたものの、室温に近い低温で高い性能を示す熱電変換材料は例が少なかった。

本研究では、1nmまで薄くしたLaNiO3の極薄膜を、電気を通さない絶縁体のLaAlO3で挟み込んだ人工構造を作製した。上下に接するLaAlO3のフォノンがLaNiO3の電子を引っ張る「フォノンドラッグ効果」によって、1℃ あたりの温度差で得られる熱起電力が10倍に増加することを発見した。さらに、このフォノンドラッグ効果はこれまで-240℃ など極低温でしか発現しないとされてきたが、-53℃ と比較的室温に近い温度でも働き、室温に近い低温で高い変換性能を示す材料の作製に役立つことも明らかになった。

異なる物質を重ねた構造を設計することで熱電変換材料の性能を大きく向上させたこの発見は、熱電変換技術の普及に向けた材料開発の新たな指針となることが期待される。

本研究成果は米国科学雑誌「Nano Letters」に、10月28日付(現地時間)でオンライン掲載された。