Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2021.02.08

プレスリリース

光合成機能の制御が生産性維持に重要であることを解明

植物の光合成酵素の制御スイッチを壊したら何が起こるのか

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 横地佑一大学院生(研究当時)と科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の久堀徹教授らは、ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学のアンドレアス・ウエバー教授らと共同で、植物の光合成を制御するレドックス制御機構の生理的な役割を調べるため、光合成酵素のひとつNADP-リンゴ酸脱水素酵素(MDH)の制御スイッチをゲノム編集技術で破壊し、この制御機構の植物における重要性を明らかにした。

光合成を行う葉緑体には、変化する自然環境に応じて光合成に関わる酵素の活性を調節する「レドックス(酸化還元)スイッチ」が備わっている。葉緑体の代謝機能は環境変化によって変動するため、葉緑体内のいろいろな酵素の活性を変化に応じて調節することが、機能の維持に不可欠と考えられてきた。

そこで「効率的な光合成には酵素活性の調節が重要」との仮説のもと葉緑体のレドックス調節に関する研究が行われてきたが、光合成を営む植物が生きていく上で調節機構がどんな役割を果たすのかは明らかになっていなかった。

この仮説を検証するため、研究グループはMDHのレドックススイッチを壊した場合の植物の代謝への影響を調べた。ゲノム編集技術でMDH が2つ持っているレドックススイッチの1つをなくし、暗所でも活性がオフにならない酵素を持つ変異植物を作製した。この変異植物は暗所でもMDHの働きでNADPHを消費するため生育に不利と予想されたが、生育実験に用いられる標準的な長日条件では野生型の植物と大きな違いが見られなかった。ところが、短日条件や明暗が頻繁に切り替わる変動光条件では変異型の植物は明らかに生育が遅延した。すなわち、制御スイッチによるMDH 活性の制御は、常に周囲の状況が変動する自然環境のような条件下では、葉緑体内の還元物質NADPHの量をあるレベルに保って代謝機能を維持するために重要であるということである。

この研究成果は2月3日(日本時間)に「Proceedings of National Academy of Science USA」電子版に発表された。