Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2019.03.28

プレスリリース

オートファゴソームに脂質を供給する仕組みを解明

オートファジーにまつわる数十年来の謎が明らかに

微生物化学研究所の野田展生 部長、大澤拓生 博士研究員らは、オートファジーを担うたんぱく質群の1つであるAtg2が2つの脂質膜の間で脂質の輸送を担う活性があることを発見し、その活性がオートファゴソームを作るための脂質供給を行うことを明らかにしました。

細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つであるオートファジーにおいて、オートファゴソームの形成は分解対象を決定する極めて重要なステップですが、オートファゴソームを作るための脂質供給の仕組みはこれまで分かっていませんでした。

本研究グループは、オートファゴソームの前駆体膜(隔離膜)と小胞体膜の接点に局在するAtg2が、リン脂質を収容するポケットを持つことをX線結晶構造解析法で明らかにしました。さらに試験管内でAtg2の活性を調べた結果、Atg2が2つの膜をつなぎ止め、両者の間でリン脂質の輸送を担う活性を持つことを明らかにしました。そしてこの活性を失った変異体は酵母におけるオートファジーを強く阻害しました。以上の結果から、Atg2は脂質輸送を担う新奇たんぱく質であり、その活性を用いて小胞体などの細胞内脂質膜からオートファゴソーム前駆体へと脂質を直接輸送し、オートファゴソームの形成に働くという全く新しい仕組みが明らかになりました。

本研究により、オートファジーの要であるオートファゴソームの形成過程の基本原理が明らかとなり、今後のオートファジーの特異的制御剤の開発に向けた基盤となることが期待されます。

本研究は、東京工業大学の大隅良典 栄誉教授、中戸川仁 准教授、小谷哲也 研究員、および東京大学の鈴木邦律 准教授のグループと共同で行いました。

本研究成果は、2019年3月25日(英国時間)に英国科学誌「Nature Structural& Molecular Biology」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」
(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」
研究代表者: 野田展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究期間: 平成25年4月~平成31年3月

JSTは本領域で、先端的ライフサイエンス領域と構造生物学との融合により、ライフサイエンスの革新につながる「構造生命科学」と先端基盤技術の創出を目指します。

上記研究課題では、オートファゴソーム形成に働くたんぱく質群が膜の上で繰り広げる相互作用を構造生物学的に明らかにすることで、オートファゴソーム形成機構の分子論的解明を目指します。