Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2018.12.11

プレスリリース

食塩の過剰摂取によって高血圧が発症する脳の仕組みを解明

新たな治療薬の開発に期待

高血圧は、日本の成人のうち約4,300万人が罹患していると試算される重大な国民病です。食塩の過剰摂取が高血圧の原因となることは良く知られており、その仕組みとして、体液中のNa+濃度が上昇することによって交感神経系が活性化し、その結果として血圧が上がる、という説が有力となっています。しかし、脳がどのようにしてNa+濃度を感知し、その情報をどのような仕組みで交感神経まで伝えられているのかは不明でした。

今回、自然科学研究機構 基礎生物学研究所の野田昌晴教授(総合研究大学院大学 教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 特定教授(11月1日より))の研究グループは、食塩(塩化ナトリウム)の過剰摂取により体液中のナトリウム(Na+)濃度が上昇すると、脳内のNa+濃度センサーであるNaxがこれを感知して活性化する、その結果、交感神経の活性化を介して血圧上昇が起こることを初めて示しました。

本研究グループでは、これまでに細胞外液のNa+濃度上昇に応じて開口するNaチャンネルであるNaxを見いだし、その機能や生理的役割を明らかにしてきました。今回、Nax遺伝子を欠損したマウスが、野生型マウスと異なり、体液のNa+濃度が上昇しても交感神経の活性化による血圧の上昇を起こさないことを発見しました。さらに、神経活動の活性化や抑制を光によってコントロールする技術などを用いて、Naxが感知したNa+濃度上昇のシグナルが交感神経の活性化につながる仕組みを分子のレベル、および神経回路ネットワークのレベルで解明しました。

本成果は、Na+濃度と血圧上昇をつなぐ脳内機構を詳細に明らかにしたものであり、高血圧に対する新しい治療戦略の創出に役立つものと期待されます。

本研究成果は、2018年11月29日午前11時(米国東部時間)に米国科学雑誌「Neuron」オンライン版で公開されました。