Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2018.05.30

プレスリリース

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに

スピン軌道工学に道

東京大学 大学院理学系研究科の岡林潤准教授、物質材料研究機構の三浦良雄独立研究者、東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の宗片比呂夫教授による研究チームは、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)の薄膜界面に膜垂直方向に磁石の性質が生じるメカニズムについて、放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD)と第一原理計算により明らかにしました。特に、CoとPd原子内の電子軌道の形を明確にし、元素によって異なる役割を担っていることを実証しました。得られた結果は、磁性体と非磁性体が接合した界面に誘起される磁性に関する基礎物理学の理解を進展させるのみでなく、スピンを操作して低消費電力にて動作するスピントロニクス素子の設計においても重要な役割を果たすことが期待されます。

CoとPdの界面では、両元素の磁気的な相互作用により、膜面に垂直方向に磁化が揃うことが知られています。また、膜に垂直方向に磁化する材料は大容量の磁気記録デバイスには不可欠なものとして、スピントロニクス分野では研究されています。研究チームは、CoとPdの接する界面原子中の電子軌道の形を明確にし、Coでは外殻3d電子軌道の異方性が支配的であり、Pdでは外殻4d電子軌道には異方性がなく、3d系とは異なる四極子相互作用の形をとっていることが判りました。これを調べるためには、元素別に磁気状態を調べる必要があり、放射光を用いた元素選択的な磁性の検出手法が不可欠です。愛知県岡崎市にある分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)のビームラインBL4BにてXMCDの測定を行いました。また、実験の一部は茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構放射光施設(フォトンファクトリー)において、東京大学 大学院理学系研究科 スペクトル化学研究センターが所有するビームライン(BL-7A)にて測定を行うことにより、CoとPdの軌道の異方性を明確にできました。実験結果は、第一原理に基づく理論計算とも一致し、界面に誘起される新しい磁性材料の創出に繋がることが期待されます。

本成果は、2018年5月29日(英国夏時間午前10時)に、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されます。なお、本研究は科研費基盤研究(S)「界面スピン軌道結合の微視的解明と巨大垂直磁気異方性デバイスの創製」、科研費基盤研究(B)「外場摂動印加時の磁気分光を用いた軌道磁気モーメントの操作に関する研究」の助成を受けて実施されました。