Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2018.04.10

プレスリリース

金融市場トレーダーの行動法則をボルツマン方程式で解明

東京工業大学 科学技術創成研究院 ビッグデータ数理科学研究ユニットの高安美佐子教授、高安秀樹特任教授、金澤輝代士助教、末重拓己大学院生(博士後期課程2年)は、ドル円市場の売買注文のトレーディング・ログをトレーダー個々のレベルで分析し、注文行動時に共通する統計法則を発見した。さらに、この発見に基づいた市場の数理モデルを構築し、ボルツマン方程式を用いて、市場の様々な特性を理論的に導出することに成功した。

具体的には、市場価格の過去の変化が個々のトレーダーの指値の変化とどのように相関を持つかを解析し、“トレンドフォロー”と呼ばれる市場トレンドに追随する取引戦略を多くのトレーダーが採用していることを、初めて定量的に示すことができた。そこで、そのような特性を持つトレーダー集団による仮想的な市場を想定し、水中を漂う微粒子のランダムな運動を解析する手法であるボルツマン方程式で理論解析し、価格変動や売買注文の分布などの基本的な特性が全て現実の市場の特性と整合することを見出すことができた。

金融市場でのトレーディング戦略を個々のトレーダーの実データに基づき解析して特徴付けた研究は過去になく、今回の成果は、金融市場をデータ分析に基づいて科学的にモデル化する基盤ができたことになる。今後、金融市場の暴騰や暴落などの異常な動力学の理解にあたり、物理学の数理手法が応用できると期待される。

この研究成果は3月27日発行の米物理学会誌「Physical Review Letters(電子版)」に掲載された。