Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2024.01.15

プレスリリース

引張り力で体中の蛍光色が変わるマウスの作出に成功

組織から細胞まで内部張力の可視化を簡便に

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の北口哲也准教授は、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の松本健郎教授、王軍鋒研究員、前田英次郎准教授らの研究グループと理化学研究所 光量子工学研究センターの横田秀夫チームリーダーらと共同で、体中の組織の蛍光色が引張りに応じて変化するマウスの系統を新たに作製しました。

筋肉を鍛えると太く逞しくなるように、生物の組織、細胞、タンパク質は外界からの力から大きな影響を受けます。このような、力が生物に及ぼす影響を調べる分野をメカノバイオロジーと呼びますが、その発展には細胞やタンパク質に加わる力を安定的に可視化する方法が非常に重要です。そのために、従来「FRET型張力センサ」と呼ばれる、引張りによって蛍光色が変化するタンパク質を利用する方法が用いられてきました。しかし、このセンサの遺伝子を組み込んだマウスは、応答が十分でないために、観察には1億円近くする高価な顕微鏡(FILM)で精密に測定する必要がありました。

今回私たちは「FRET型張力センサ」の応答を改良し、その遺伝子を持つ遺伝子改変マウスの作出に成功しました。このマウスでは研究現場に広く普及している「共焦点顕微鏡」で張力変化を観察できることを、血管、腱、筋肉、それらから単離した細胞で確認しました。また、組織や細胞によって張力に対する感度が違うことを発見し、その原因は組織や細胞の微細構造の差や、組織ごとの機能の差によって生じる可能性があると結論づけました。

本研究で開発したマウスを使うことで、様々な組織や細胞内の張力変化に加え、発生、成長、老化の過程における応答の変化も簡便に調べられるため、幅広いメカノバイオロジー分野への貢献が期待されます。

本研究成果は、2023年12月20日付英科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。