2023.12.04
単一高分子の「自己折りたたみ」に基づく新規MRI造影剤を開発
がんの高精度MRI診断と中性子捕捉がん治療を同時に実施可能な基盤技術として期待
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の三浦裕准教授と西山伸宏教授、高山(Gao Shan)大学院生らの研究チームは、量子科学技術研究開発機構(QST) 量子医科学研究所の青木伊知男上席研究員、長田健介グループリーダーらの研究グループならびに川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)と共同で、がんの高精度MRI診断と中性子捕捉がん治療を同時に実施できる新規高分子MRI造影剤を開発した。
乳がんや脳腫瘍などの検査に必須なMRI用造影剤は、従来品では環境毒性のあるガドリニウムという重金属を500~1,000 mMもの高濃度で投与する必要があり、副作用や体内残留のリスクに加えて、自然環境への負荷の可能性があるため、減量化や代替物質の必要性が指摘されている。
本研究では、親水性部位と疎水性部位からなる新規高分子の精密合成によって、一本の高分子が水中で自発的に折りたたまれる現象「自己折りたたみ」を誘起させることで、ナノ粒子化に成功した。この粒子は高分子の10 nm以下で、既存の多くのナノ粒子よりも極めて小さく、膵臓がんなど難治性が高いがんへの集積が期待できる。また、折りたたまれた高分子鎖中にMRIの造影分子を封じ込めることで緩和能が向上し、少ない投与量でもがんを検出できる優れた造影効果を維持することも実証した。これにより下水に廃棄される重金属が削減され、自然環境への負荷軽減につながる。
さらに、マウスを用いた実験により、本研究で開発された薬剤はがん選択的に高濃度に送達ができ、MRIによる高解像度な分布の可視化も可能であることを確認した。このことは、近年注目されている中性子捕捉がん治療の課題となっていた、中性子と反応するホウ素が腫瘍全域に確実に集まっているかの判定に貢献するものである。
本研究成果は、新しい原理に基づく高精度のがん診断薬の創出基盤となるだけでなく、MRイメージングによるガイドを介した中性子捕捉療法の実施、すなわち一つの薬剤で診断と治療を同時に達成できるセラノスティクス薬剤への展開も期待される。
本研究成果は、材料科学、物理学、化学、医学、生命科学、工学の基礎および応用研究において高水準の研究成果が掲載される学術誌「Advanced Science」(インパクトファクター: 17.521)に11月29日付で掲載された。