Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2023.01.04

プレスリリース

脂肪肝の新しい治療法を発見

特定の酵素の阻害薬の投与で肝臓に蓄積した脂肪が減少

東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニットの新谷隆史特任准教授、野田昌晴特任教授らの研究グループは、タンパク質チロシン脱リン酸化酵素の一つであるPTPROを欠損したマウスが高度肥満状態になっても、脂肪肝や脂質異常症、糖尿病にならないことを発見した。

太りすぎの状態が続くと、脂肪組織の蓄積限界を超えてあふれ出した脂肪が、本来は脂肪がたまらない肝臓や膵臓、筋肉などに「異所性脂肪」としてたまるようになる。異所性脂肪が蓄積した臓器や組織では炎症反応が起こり、障害が発生するとともに、体全体が慢性的な低度の炎症状態になる。その結果、脂肪肝や脂質異常症、糖尿病などが生じる。

しかし、研究グループがPTPROを欠損した高度肥満マウスを調べたところ、脂肪組織に蓄えられる脂肪量が高度に増加しており、肝臓などへの異所性脂肪の蓄積がほとんど起こらず、炎症反応も低く抑えられていることが明らかになった。そのため、PTPRO欠損マウスは脂肪肝を発症せず、健康な肝臓を維持しており、脂質異常症や糖尿病も発症しない。さらに、高度肥満マウスにPTPROの働きを抑制する薬剤を1か月間投与したところ、肝臓などにたまった異所性脂肪が脂肪組織に移動することで減少し、脂肪肝や脂質異常症、糖尿病が回復した。こうした結果から、PTPROはインスリンの働きや炎症反応、脂肪組織への脂肪の蓄積の制御などに関与していることが明らかになった。

本研究成果は、肥満に伴って起こるさまざまな病気の中心として働いている分子とそのメカニズムを明らかにしたものであり、肥満によって誘発される脂肪肝(炎)や脂質異常症、糖尿病などの疾患の新しい治療法や予防法の確立につながるものと期待される。また、本研究成果は12月17日付で英国科学誌「Life Sciences」にオンライン掲載された。