Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2022.09.15

プレスリリース

生細胞内タンパク質の量と動態を蛍光抗体で観察することに成功

細胞内タンパク質の発現に基づく細胞選別法としても期待

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の上田宏教授と同大学 生命理工学院 生命理工学系のDai Yancen(ダイ・ヤンセン)大学院生、科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの佐藤優子助教と木村宏教授、シンガポール科学技術研究庁のF.A. Ghadessy(ファリッド・ガデシー)主席研究員らは、細胞内抗原に結合すると光る抗体断片Intra Q-bodyを細胞内に導入することにより、生細胞内タンパク質存在量の時空間的変化を観察できるバイオセンサーとして用いることに成功した。

これまで研究グループでは、蛍光色素で部位特異的に化学修飾した抗体断片であるクエンチ抗体(Quench body/Q-body)を構築してきた。Q-bodyは、励起光を照射したときの蛍光強度の変化を見ることで、抗原としてさまざまな物質を検出できる。しかしこれまでは、細胞表面にあるバイオマーカータンパク質の簡便な検出は可能だったが、細胞内タンパク質の検出やイメージングには成功していなかった。

今回研究グループでは、がん抑制タンパク質であるp53を細胞内で高い応答で検出できる、安定なQ-Body(Intra Q-body)を構築した。これを細胞内に電気穿孔法を利用して導入することで、固定化細胞のみならず、洗浄が不可能な生細胞内でもガン抑制タンパク質p53のリアルタイムイメージングに成功した。

このIntra Q-bodyを用いたシステムでは、抗がん剤投与による生細胞内でのp53量の時間変化を、高い応答と精度で24時間以上にわたり観察できた。さらに、発現量の異なる細胞群の中からp53発現細胞のみをセルソーターで濃縮することにも成功した。

この方法によれば、今後さまざまな細胞内バイオマーカー発現細胞を簡便に検出・単離でき、将来的には効果的な細胞治療につながると期待される。

この成果は、英国時間8月1日に英国化学誌「Chemical Science(ケミカル・サイエンス)」にオンライン掲載された。