Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2016.08.29

プレスリリース

重イオン反応による新たな核分裂核データ取得方法を確立―核分裂現象の解明にも道―

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄。以下「原子力機構」)先端基礎研究センターの西尾勝久サブリーダー及び廣瀬健太郎研究副主幹らは、東京工業大学(学長 三島良直。以下「東工大」)科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、近畿大学(学長 塩﨑均)理工学部 電気電子工学科の有友嘉浩准教授らのグループとの共同研究により、核分裂核データとして重要な核分裂片の質量数収率分布を重イオンどうしの衝突で生じる多核子移行反応によって取得する新たな方法の開発に成功するとともに、動力学モデルで実験データを再現することに成功しました。

アクチノイド原子核の中性子入射核分裂では、様々な種類の原子核が核分裂片として生成されます。核分裂片の質量数に対する収率の分布(質量数収率分布)は、原子炉の安全性に関わる崩壊熱や遅発中性子数を決定する重要なデータです。また、長寿命マイナーアクチノイド原子核(MA)を高エネルギー中性子入射核分裂で核変換する場合にも必要となります。これまでの中性子入射反応においては、高純度試料が入手できない、あるいは半減期が短いなどの理由から測定されていない核種があります。また、高エネルギー中性子データも極めて限られています。

本研究では、原子力機構タンデム加速器[用語7]で加速された酸素18ビームをトリウム232標的に照射することで、トリウムからウランにおよぶ14種類の原子核を一度に生成し、これらの核分裂の質量数収率分布を取得するとともに、1 MeVから50 MeVの中性子エネルギーに対応するデータを取得しました。この手法を用いれば、さらに多くの核種のデータ取得が可能になります。中性子過剰な原子核の核分裂も調べられるようになるため、新たな領域の核分裂研究の発展にもつながると期待されます。本研究成果は、2016年8月24日付で、オランダElsevier社が発行する「Physics Letters B」のオンライン版に掲載されました。

本研究は文部科学省の原子力システム研究開発事業による委託業務として、東工大と原子力機構が実施した平成24-27年度「高燃焼度原子炉動特性評価のための遅発中性子収率高精度化に関する研究開発」の成果です。