Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2017.10.02

プレスリリース

硫黄ナノクラスターの“精密”質量分析法

硫黄ナノクラスターの“精密”質量分析法 ―分子カプセルの利用で、環状硫黄の安定化と選択的合成を達成―

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の松野 匠大学院生(修士課程2年)、山科雅裕博士研究員と吉沢道人准教授らは、ナノサイズの硫黄クラスターを分子カプセルに包み込むことで構造が安定に維持され、汎用の質量分析装置を使ってその質量数を正確に決定することに初めて成功した。また、分子カプセルの内部空間で、高分解性の硫黄ナノクラスターの安定化と光照射による選択的なクラスター合成にも成功した。本研究成果は、種々の無機ナノクラスター(材料や触媒など)の「精密分析法」と「選択的合成法」の新提案であり、幅広い応用研究が期待される。

有機および無機化合物の構造決定において、「質量分析」は重要な役割を果たしている。とりわけ無機クラスターは、他の分析法では十分な構造情報が得られないため、質量分析が最重要の手段となっている。自然界に豊富に存在する硫黄(S)は、種々の大きさの塊(クラスター)を形成する。しかしながら、それらの無機クラスターは、これまでの質量分析条件では容易に分解するため、構造決定が困難であった。本研究では、中性の硫黄ナノクラスターの質量数を決定する新手法の開発に挑戦した。同グループが開発したイオン性の分子カプセルは、水中で2分子の環状S8およびS6クラスターを定量的に内包した。内包された硫黄ナノクラスターは顕著に安定化され、それらの質量数を汎用の質量分析装置(ESI-TOF MS)で精密に決定することに成功した。さらに、光照射により、2分子のS6クラスターから1分子のS12クラスターへの変換反応が、カプセル内で高選択的に進行することを見出した。分子カプセルに秘められた新しい機能を開拓した。

これらの研究成果は、同研究所の山元公寿教授グループ(無機化学)との共同研究によるもので、Springer NatureのNature Communications誌のオンライン版に、平成29年9月29日10時(英国時間)付けで掲載されました。