Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2017.11.14

プレスリリース

合成途上のタンパク質が故意に合成を中断する現象を発見 ―細胞内の環境変化を感知する新たなしくみ―

東京工業大学の茶谷悠平研究員、丹羽達也助教、和泉貴士大学院生(研究当時修士課程2年)、菅田信幸大学院生(修士課程1年)、田口英樹教授、東京大学の長尾翌手可助教、鈴木勉教授、京都産業大学の千葉志信准教授、伊藤維昭シニアリサーチフェローの研究グループは、タンパク質が合成される途中で、リボソームの構造を不安定化することで、合成を終らせてしまうことがあることを発見、これが細胞の環境適応のために利用されていることを見出しました。

生命現象を担うタンパク質は、すべてリボソームというタンパク質合成装置で作られます。リボソームはDNAに書き込まれた遺伝暗号に従って、始点から終点までアミノ酸を一つずつ鎖状に繋げてタンパク質を合成します。最近、このアミノ酸を繋げていくスピードはいつも同じではなく、多くは途中で減速や一時停止することがわかってきました。

研究グループは、タンパク質合成過程で、アミノ酸の並び方によっては終点に至らなくてもリボソームを不安定化して合成を終了することを発見しました。さらに、この途中終了のしくみを細胞内のマグネシウムイオン濃度をモニターするのに使っていることも発見しました。これまでの分子生物学の常識では、タンパク質が合成される際の始点と終点は遺伝暗号により厳密に指定されていると考えられてきましたが、今回の発見で、DNAに刻み込まれた遺伝情報はタンパク質合成の途中終了も指令できることが判明しました。リボソームはタンパク質を合成する際大きな構造変化を余儀なくされるため、産みの苦しみとでも喩えられるような不安定化が起こることも示されました。この成果は、生命現象の理解を深めると同時に、有用タンパク質の生産などの応用へも波及効果が期待できます。

本研究成果は11月2日付けの米国の学術誌「Molecular Cell」電子版に掲載されました。