Institute of Innovative Research, 
Tokyo Institute of Technology.

2020.09.11

プレスリリース

量子アニーリング装置による量子シミュレーションを実行

非平衡量子統計力学理論の実証とさらなる発展に貢献

東京工業大学の西森秀稔特任教授らの研究チームは、D-Wave Systems 社の量子アニーリング装置(量子アニーリング型量子コンピュータ)を用いて磁性体内部に欠陥ができるメカニズムの理論を検証するために量子シミュレーションを実行した。

量子コンピュータの理論は、理想的な動作をする量子ビットを想定して構成されている。しかし、今回の量子シミュレーションにおいては、実際には理想的な状況とは異なる動作をしている明確な証拠が見つかり、その影響を考慮して結果を解析する必要性が明らかになった。

また、欠陥の数の統計分布に関する最近の非平衡量子統計力学理論も理想的な量子ビットを前提としているが、理想的な状況から乖離した実験条件下でもその理論が成立していることが見出された。理想的な条件で導出された理論がその条件が満たされない場合にも成立することを、量子コンピュータを用いて発見した世界初の例といえる。

今回の研究成果は量子アニーリング型量子コンピュータの実験装置としての有用性を示したものであり、高速性にのみ注目が集まりがちな量子コンピュータの研究開発の今後の方向性に多大な影響を与えるものと期待される。

この研究は東京工業大学 科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニットの坂東優樹研究員、須佐友紀研究員(現NEC)、西森秀稔特任教授らと、東北大学、埼玉医科大学、ドネスチア国際物理学研究センター(スペイン)、南カリフォルニア大学(米国)との共同研究で、米国時間9月8日付けで米国物理学会が発行するPhysical Review Research(フィジカル・レビュー・リサーチ)誌に論文が掲載された。