2020~2021年度 News
2022-3-26
専門基礎研究塾 有機化学分野 第9回オンラインセミナー
2022年3月26日、第9回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は、大森建博士(東京工業大学)とVipul V. Betkekar 博士(東京工業大学)
演題: "The polyphenol world: Total syntheses of structurally complex and unusual natural flavonoids"
講演では、植物中に豊富に含まれるフラボノイド類は、薬理や健康効果のある物質として注目されています。本セミナーではこれらポリフェノール類の構造的特徴や基本的反応性についての興味深い話がありました。前半は、特に強い生理活性が期待されるフラボノイドオリゴマーについて、これまでの合成法の問題点と最近の研究の進展を、また後半は、本学にて実際に行われた合成研究の詳細が紹介されました。参加者13人、セミナーと質疑応答を楽しみました。
2022-3-25
基礎研究機構 広域基礎研究塾主催 塾生研修セミナー
基礎研究機構は、国内外のトップレベルで活躍できる次世代を担う研究者を育成・輩出する活動の一環として、2022年3月10日(木)15:00~16:30、翌11日(金)9:15~12:20に「塾生研修セミナー」を開催しました。今回は新型コロナウイルス感染防止の観点から、すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールを主会場に、ウェビナー配信を併用するハイブリッド開催としました。本年度は学内から3名の演者をお招きし、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の本年度塾生に加え、高度人材育成プログラムに参加中の大学院博士課程学生を対象に、今後の研究活動の糧となる極めて有用なお話を伺う機会となりました。
塾生研修セミナーは、広域基礎研究塾の大竹尚登塾長の司会により進行され、大竹尚登塾長による開会の辞で始まり、3名の演者の先生からの講演の後、伊能教夫副機構長による閉会の辞で終了しました。開催期間中の参加者数が常時100名を超える盛況な催しとなりました。
講演1.理工学の再定義 -これからの学術を支える皆さんへの期待-
統括理事・副学長 佐藤 勲 先生
佐藤先生は本学機械工学系の学部を卒業され、大学院博士後期課程を中退の後、助手、助教授を経て教授に昇任されました。ご専門は熱工学・エネルギー応用分野とプラスチック成形です。また、2014年から副学長、2018年から総括・理事副学長として大学経営をご担当され、未来社会デザイン機構長も兼務されています。今回は、「理工学の再定義」という演題の下、本学の将来構想に向けた改革の実績や現執行部の認識、投資効果とコスト分析に基づく大学経営、好循環をマネージする経営体制、社会還元できる成果を生む人材への投資、新しい研究領域開拓への投資、本学が考える長期的経営戦略、好循環を抜本的に強化するための手法等について、幅広く且つ深淵な話題を解説頂きました。また、若手研究者には「興味・関心の「種」を遠くへ飛ばそう」という素敵なメッセージを頂戴しました。
講演2.研究を追求して幸せな人生を -Managementばかりだった人生から-
工学院 特任教授 篭橋 雄二 先生
篭橋先生は本学機械工学系の学部を卒業され、大学院修士課程を修了後に専売公社(現:JT)に入社されました。製造部門、新規事業(外食産業ジョイントベンチャーのCEO)、人事部門(新人採用責任者)、創薬事業(鳥居薬品専務取締役)を歴任された後、2015年に本学の特任教授に着任され、工系人材養成機構で若手人材の育成や産学連携でご活躍されています。今回は、「研究を追求した人」とは、無意識の前提を持たないこと、良き社会人であること、想像力があること、好奇心が強く対象が広いこと、異なる領域でも学ぶ力があること、海外でもRespectされること、等の特性を持つことを、実例や経験談を交えて詳細に解説頂きました。また、「幸せな人生とは?」と自問自答することが若手研究者への道標となることを、講演を通じて繰り返し発信頂いたと思います。
講演3.研究よもやま話
栄誉教授 鈴木 啓介 先生
鈴木先生は東京大学理学部を卒業され、大学院博士後期課程修了後、慶應義塾大学の助手、助教授を経て教授に昇任されました。1996年に本学理学部の教授に着任され、2018年から日本学士院会員、2020年に退官、現在は本学栄誉教授・特命教授となられております。ご専門は有機合成化学で、基礎研究機構の専門基礎専門塾(有機化学)の塾長もされております。今回は、有機化学の歴史を、生命現象の多様性や医薬品・染料等の開発との関連にも触れながら、先生の経験談も交えて専門外の聴衆にも分かり易くご説明頂きました。また、先生ご自身が若手研究者の時に多大な影響を受けた3人の恩師の様々な逸話もご紹介頂きました。しっかりした歴史観を持ち、濃密な人間関係を大切にすることが、仕事を極めるための極意であるとの先生の信念が、ひしひしと伝わってくる講演だったと思います。
伊能先生より閉会の挨拶があり、盛況のうちに塾生研修セミナーは終了しました。
2022-3-25
基礎研究機構 2021年度成果報告会、塾生ポスター発表会
最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が2018年度に設立した基礎研究機構(久堀徹機構長)の2021年度成果報告会を3月10日13:30~14:45に開催しました。今回は新型コロナウイルス感染防止の観点から、すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールを主会場に、ウェビナー配信を併用するハイブリッド開催としました。益一哉学長ら本学の機構関係者各位にご列席頂くと共に、高度人材育成プログラムに大学院博士課程学生にもウェビナー参加頂いたため、会場参加数約50名、ウェビナー参加数約120名を超える盛況な催しとなりました。
成果報告会は伊能教夫副機構長の司会により進行され、最初に久堀機構長の挨拶、次いでご来賓の文部科学省研究振興局池田貴城局長からビデオメッセージによるご挨拶を頂きました。
次いで、広域基礎研究塾の大竹塾長より、基礎研究機構の歩みと展開、並びに、本年度の広域基礎研究塾の活動報告がありました。
基礎研究機構の歩みと展望 大竹尚登 塾長
本学は、指定国立大学法人の構想における基礎研究者育成の場として、基礎研究機構を設立した。2016年に本学の大隈良典栄誉教授がノーベル賞を受賞された際に、「社会が将来を見据えて科学を一つの文化として認めてくれるようにならないかと強く願っている。若い人達を何かサポートできるようなシステムができないか?」と訴えられたことを受け、企画・創設に至った。専門基礎研究塾は基礎研究で著名な業績を有する本学研究者を塾長とし、5年程度研究に専念できる環境を整備して卓越した研究者を養成する。現在、大隅良典先生を塾長とする細胞科学分野、西森秀稔先生を塾長とする量子コンピューティング分野、鈴木啓介先生を塾長とする有機化学分野の3塾が活動している。一方、広域基礎研究塾では全ての分野の若手研究者を対象に、3カ月程度の研鑽を通じて自分自身の将来の研究テーマを深く探求する機会を提供している。基礎研究機構は、長期的視点に基づき、自由な発想に基づく基礎研究を推進する環境を提供する役割を担っており、本学における今後の取組は益々重要となっている。
広域基礎研究塾の活動報告 大竹尚登 塾長
当広域塾は3ヵ月の期間に限定し、塾生となる若手助教に研究エフォートを上げて貰い、自分のテーマを深く考えることを目的としている。今期はコロナ禍のために第3Qのみの開催となり、塾生21名での活動となった。コロナ禍の中での塾生選抜には各学院の学院長や学院事務に大変ご助力頂いた。広域塾の今期プログラムは、1.オリエンテーション、2.個別面談、3.研究分野紹介発表会、4.「大隅先生を囲む会」、5.WS「未来社会と自身の研究との繋がりを考える」、6.「西森先生を囲む会」、7.研究テーマ設定発表会、8.「成果報告会」としている。研究テーマ設定発表会ではそれぞれの塾生が広域塾の活動を通して考案した新たな研究テーマを発表したが、企画に留まっては意味が薄れる。そこで、今年も「新研究挑戦奨励金」を本学から拠出して頂き、塾生の提案と機構での審査を経て8件の個人研究と8件の共同研究を採択し、実施した。塾生に対する匿名アンケートでは、オンライン開催中心で交流の機会が少なかった本年度は若干ネガティブな感想の方が増えたが、9割をポジティブな意見が占めた。1、2期生の科研費獲得状況を同世代の本学助教と比較すると、挑戦的テーマに採択されている比率がほぼ2倍高いことが判明している。広域基礎研究塾では、同世代の異分野研究者との交流・気づきを通じて若手が成長していくのが実感でき、且つ、将来の連携の足がかりとしても機能していると感じている。
続いて、3つの専門基礎研究塾から、大隅良典塾長(細胞科学分野)、西森秀稔塾長(量子コンピューティング分野)、鈴木啓介塾長(有機化学分野)による本年度の活動報告がありました。
専門基礎研究塾(細胞科学分野)の活動報告 大隅良典 塾長
毎年、塾生数名が国内外の然るべき無期雇用ポジションを得て転出し、塾生は常に入れ替わっている。また、本年度は塾生が合計4千万円の競争的資金を獲得し、この3年間では若手が筆頭著者となった学術論文は16報採択されている。本専門塾の活動は以下の4つとなる。
1. 談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。今期は野田特任教授による1回を開催。
2. コロキウム:国内外の講師を招き、最先端の研究成果を紹介。今期は9回開催。
3. 塾生研究費:研究費として有効活用。
4. 共同実験室・共同利用機器:3年間整備を継続。各研究室の機器共用化も継続。
専門基礎研究塾(量子コンピューティング分野)の活動報告 西森秀稔 塾長
研究ユニットとしては学内外のメンバーを含めて多人数で活動しており、当専門塾では塾生1名での活動としている。研究室の卒業生や在学生の成果である学術論文やベンチャー設立は、本学ホームページやマスメディアで紹介している。当専門塾の活動は以下の2つ。今期はオンライン国際会議も開催した。
1. セミナ-:国内外からの幅広い研究者により話題提供頂く。今期はオンラインで3回開催。
2. 塾生研究費:出張が困難だったこともあり、今期はリモートワーク環境整備に充てた。
専門基礎研究塾(有機化学分野) 鈴木啓介 塾長
当専門塾を寺子屋に見立て、学外のアドバイザーも含めた合成と解析を両輪とする有機合成化学のサロンとして機能させたい。活用塾立ち上げ時からコロナ禍に見舞われたため、逆手にとってオンラインセミナーを中心に、人と人とのインタラクションを重視している。当専門塾の活動は以下の2つ。来期はオンライン研究室訪問を実施したい。
インタラクティブセミナ-:今期は国内外6名の講師によりオンライン講演会を開催。
塾生研究費:塾生の消耗品購入や学会参加(学会参加が困難なため、消耗品購入)。
塾長からの報告に続き、広域基礎研究塾の修了生の田中由乃助教(1期生)、荒井慧悟助教(4期生)からの塾生報告がありました。
塾生報告 田中由乃 助教
物質理工学院の倉科助教との共同研究として、マルチ3Dプリンタ模型と既存模型とを組み合わせた沖縄での護岸再建プロジェクトに応用し、未来社会デザイン機構のDLab Challangeに採択された。この活動が学内外の若手研究者によるOpen Frontier Researchers’ Networkの立ち上げにつながった。
塾生報告 荒井慧悟 助教
世界における日本の大学はレベル低下が危惧されているが、一方でZ世代では急速に脱競争化が進んでいる。そこで、学内外の有識者のインタビューやディスカッションを基に、アカデミア・ゲームチェンジのための東工大ビジョンを自主的に構築した。
1. コアバリュー: 暇と遊び
2. パーパス: 心理・道徳を体現できる人材・思想・手段の輩出
3. ミッション: 2030年までに優秀な高校生が最もあこがれる大学になる
最後に益学長の挨拶により成果報告会を終えることができました。
閉会の辞 益一哉 学長
新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延し、基礎研究機構もその影響を受け、各塾関係者の方々には大変ご苦労頂いた。本機構の将来構想については日頃から検討を重ねており、第4期国立大学法人中期目標・中期計画や独自計画を盛り込んだ2022年3月版の本学アクションパッケージにも落とし込まれている。皆さんが今後新たな分野を切り拓くには大変なプレッシャーを受けることになるが、それを恐れずにチャレンジして頂きたい。本学はそうした試みを実現できる大学になって行きたいと考えている。なお、昨年度は緊急事態宣言によりポスター発表会が開催できず、大変残念であった。本日は2年ぶりのポスター発表で塾生の方々の日頃の成果を直接聞かせて頂く機会を持てると聞き、非常にワクワクしている。
ポスター発表会
成果報告会と同日の16:45~18:50に、すずかけ台キャンパスS1棟105号室にて専門基礎研究塾の有志、広域基礎研究塾1,2期生の有志、3、4期生全員によるポスター発表会を開催しました。ポスター発表数は57件、参加者は約70名でした。新型コロナウイルス感染防止の観点から、ポスター番号の奇数と偶数とが隣同士となるように掲示し、前半の1時間に奇数番号の発表を、後半の1時間に偶数番号の発表を行うことにより、ポスター前を密にならないよう配慮しました。渡辺治理事・副学長の開会の挨拶の直後から始まった活発な議論は、益一哉学長の閉会の挨拶の後も暫く続きました。
2022-3-18
専門基礎研究塾 細胞科学分野 コロキウムを開催
2022年3月16日に、コロキウムが開催されました。
演者:洲崎悦生先生 (順天堂大学 大学院医学研究科)
演題: "臓器・全身スケールの3次元組織学による多細胞システムへのアプローチ"
洲崎先生には、セルオミクスフレームワーク「CUBIC」を中心に、多細胞システム解析の最先端手法を紹介していただきました。全臓器染色およびイメージングのための最新の手法「CUBIC-HistoVIsion」や多数のマウス全脳イメージングデータを統合・定量解析するプラットフォーム「CUBIC-Atlas」など、これまでの多細胞系の臓器および全身スケールの組織学の限界を大幅に超える革新的な技術をご教授いただき、大変excitingなご講演でした。
Zoomによるオンラインセミナーで45名の参加があり、講演後に塾生を交えて活発な議論が行われました。
2022-2-22
成果報告会および若手教員向けセミナー(3/10-11)のお知らせ
成果報告会 3月10日(木)、すずかけ台キャンパス S8棟レクチャーホールからオンライン配信にて、基礎研究機構成果報告会を開催します。また基礎研究機構主催の若手教員向けセミナーも実施します。
- 2022年3月10日(木) 基礎研究機構成果報告会
- 2022年3月10日(木)15:00-16:25 若手教員向けセミナー
- 2022年3月11日(金)9:15-12:20 若手教員向けセミナー
2022-1-21
専門基礎研究塾 細胞科学分野 コロキウムを開催
2022年1月20日に、コロキウムが開催されました。
演者:内藤 幹彦 先生(東京大学大学院薬学系研究科特任教授)
演題: "タンパク質分解技術と創薬"
内藤先生は、近年大きな注目を集めているプロテインノックダウン技術の開発者の一人です。この技術は、生体内に備わるユビキチン・プロテアソーム系を化合物を用いてハイジャックし、標的タンパク質を特異的に分解するものです。基礎研究で使用されるのみならず、次世代の創薬技術として期待されています。
今回、この技術の開発経緯、現状、展望について幅広くお話しいただきました。60名の参加があり、講演の途中や後に塾生を交えて活発な議論が行われました。
2021-12-16
専門基礎研究塾 細胞科学分野 コロキウムを開催
2021年12月14日に、コロキウムが開催されました。
演者:中嶋 悠一朗 先生(東京大学大学院薬学系研究科)
演題: "腸管上皮の栄養応答における細胞運命の可塑性"
中嶋先生には、腸管上皮細胞の分化・脱分化が栄養状態で調節されることを示す最新のデータを紹介していただきました。障害により上皮細胞が脱分化することを知られていましたが、栄養状態が脱分化と再分化のトリガーとなることを示すは初めての知見であり、とても興味深いものでした。44名の参加があり、講演途中、また公演後に塾生を交えて活発な議論が行われました。
2021-12-14
専門基礎研究塾 有機化学分野 第8回オンラインセミナー
2021年11月27日、第8回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は、Oliver Reiser 博士(ドイツ、レーゲンスブルグ大学)
演題: "Breaking all the bonds: Catalytic conversion of furans and pyrroles towards natural product and drug synthesis"
でした。
講演では、再生可能資源から得られるバルクケミカルの典型例としてピロールとフランに焦点を当て、これらをどのように遷移金属触媒や光酸化還元触媒を用いて迅速に有用な複素環化合物や炭素環化合物に変換し、天然物や医薬品への道を開くか、という内容でした。参加者14人、セミナーと質疑応答を楽しみました。
2021-12-2
細胞科学分野新規入塾
2021年12月1日に基礎研究機構 専門基礎研究塾 細胞科学分野の入塾式を開催しました。 久堀徹基礎研究機構長から基礎研究機構についての説明があり、大隅良典塾長から塾生への激励と入塾証の授与が行われました。
左から大隅良典塾長、佐竹智子研究員、久堀徹基礎研究機構長
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2021-11-26
広域基礎研究塾 2021年度第4期生 研究テーマ設定発表会
2021年11月11日13時30分~16時30分に大岡山キャンパス百年記念館フェライト記念会議室、11月22日9時30分~16時に大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルームにて、広域基礎研究塾の2021年度4期生21名による研究テーマ設定発表会を開催しました。この発表会は、これまでの広域基礎研究塾の活動を通じて得た体験も踏まえ、研究エフォート率を高めた状態で熟慮した自分自身の研究構想を語るイベントです。各塾生は専門分野以外の研究者にも分かり易く10分間で発表し、続く10分間で質疑応答する形式を取りました。また実施にあたっては新型コロナウイルス感染防止の観点からオンライン会議システムも併用しました。
今回の発表会では、「研究分野紹介発表会」で得た他の塾生の研究との接点から着想を得た内容、「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」で共に語った未来社会シナリオの実現を起点に据えたテーマ、「西森先生を囲む会」や「大隅先生を囲む会」で伺った西森先生と大隅先生のメッセージに端を発する切り口など、広域基礎研究塾の活動から得た気付きを発展させた研究発表が目立ちました。さらに,若手教員で大学のビジョンを考えようとする取組の提案もありました。そのためか、質疑側から出された合計94件の質問は、互いに興味を高め合おうとする主旨の発言が殆どであり、また、発表者側の回答の発想が豊かなことも相まって非常に聴き応えがあり、印象深いものとなりました。
今期も、コロナ禍で授業時間が多かった中であったにもかかわらず、自分自身の研究スタンスを貫く上で異分野融合や新たに得た発想を積極的に活かして行こうとする強い意気込みを、皆で共有できた発表会であったと思います。今後、それぞれの塾生の研究構想が、各々の専門分野の先輩・同僚との議論を通じて更にブラッシュアップされ、様々な協力者との連携を経て結実することを祈念します。本発表会の終了後には、修了証授与式を執り行いました。
なお、広域基礎研究塾では昨年度に続き、本年度も新研究挑戦奨励金の募集を開始しました。本奨励金は、国立大学改革強化推進補助金を財源とし、塾生が新たに設定した研究テーマへの挑戦を支援するために創設されたものです。塾生全員に広域基礎研究塾の活動の中で練り上げた挑戦的な研究テーマ提案を期待しています。広域基礎研究塾の担当教員による審査を経て11月中に採択課題を決定し、12月に研究費が支給される予定です。
2021-11-26
広域基礎研究塾 2021年度「大隅先生を囲む会」
2021年11月9日15:00~17:30に、広域基礎研究塾では「大隅先生を囲む会」を開催致しました。この会の目的は、世界的に著名な研究者から、ご自身の半生や研究ヒストリー、若手研究者への想い等、普段聞くことが出来ない話題をご提供頂き、聴衆となる若手研究者は、講演や質疑応答の中から自分自身の発想のヒントや研究への活力を得ると共に、キャリアパス構築に役立てることを目指すことにあります。
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典栄誉教授をお招きし、ご講演頂きました。本年度塾生から18名と、昨年度参加出来なかった塾生1名の合計19名が参加しました。コロナウイルス感染が未だ収まらない状況での開催のため、十分な間隔で並べた座席に参加者はマスク着用の上で着席して本会に臨みました。
大隅先生からは、助手時代の研究の転換期とその背景、研究室を主催した後の新たな研究「オートファジー」への取組み、ノーベル賞受賞に至る多くの共同研究者との関係などに加えて、基礎研究の重要性、日本の研究者が置かれている状況、若手研究者への期待など、多岐に渡る貴重なメッセージを頂戴しました。
今回は大隅先生から塾生と意見交換の時間をとりたいというご提案で、自由討論の形で質疑応答が行われました。普段語られることの少ない若手研究者が抱えている悩みや疑問も議論の対象となり、貴重なディスカッションとなりました。その一部を以下にご紹介します。なお、「大」は大隅先生からのご意見、「塾」は広域塾生からの発言です。
- 大:海外大学に訪問すると多彩なバックグラウンドを持つ学生とフリーにディスカッションする機会を持てるが、日本の大学ではそうした機会は少ない。広域塾生の皆さんは多彩な専門分野で活躍しており、これほど広汎な異分野交流が実現する機会は希有である。自分が若手研究者の頃は、修士課程は博士課程に進む前段階と位置付けていた。現在は、博士学生の人数が減ってしまい、研究室でのノウハウ蓄積が困難になっている。博士の重要性を社会がもっと認識しないと大学院の質低下が懸念される。
- 塾:日本では博士号の社会的価値が低下しており、そのため修士でやめてしまう。博士号に魅力がないのか?それとも博士号は必要とされていないのか?
- 塾:多くの学部学生・修士学生を少数の教員が指導する現状は正直無理がある。修士学生がこれほど多い状況は長く続いているが、未だに教員がどう対処すべきか答えが出ていないと感じる。
- 大:大隅基礎科学創成財団の活動を通じて企業トップと話をする機会が多い。そこでは、博士号取得者を採用したいと考える企業トップは多いと感じる。次世代の商品を生み出すには自分で考える力を持つ博士号取得者に期待している。海外では随分以前から博士号は民間企業でも研究開発における必須の資格である。
- 塾:修士学生にそうした話(国内企業における博士号取得の重要性)は伝わっていないのではないか?自分自身、博士号を持っていて人からうらやましがられたことはない。企業トップが博士号取得者を求めていることも聞いたことがない。
- 大:もっと伝えないといけない。研究者となるために大事な訓練を受けずに修士で出てしまうことは、後々厳しい状況となることを、企業トップは知っている。
- 塾:挑戦的な研究をやっても論文が出ない、外部資金がとれないでは、次の就職が難しくなるのも事実。任期付では成果に拘らざるを得ない。
- 塾:安い給与で就職も厳しいとなると、何のために研究に勤しむのか分からなくなる。
- 塾:好きな研究をしているかどうかが重要ではないか?
- 塾:助教になって妊娠・出産・育児を経験して2年間が経った。残りの任期が気になり出した。若手研究者を大切にするとのかけ声を政府がかけるなら、任期制を何とかして欲しい。
- 塾:出産や介護により任期延長する制度はあるものの、実質的にはキャリアを諦める方向に気持ちが動く。
- 塾:同一勤務に長年従事し続けると発想が固定化しがち。任期よりも次の職にどうつなげるかといった観点の方が重要と思うようになった。
- 塾:海外での若手研究者の任期問題はどうか?
- 大:海外でもポスドクの任期は厳しいし、教員になれてもテニュア取得は厳しい。米国だと企業への転職機会も多く、給与もいい。
- 塾:好きな研究はテニュアをとってからやるしかないと考えざるを得ない。
- 塾:日本も海外もそれぞれの事情はあるものの、任期問題は存在する。任期は個人のリスクが大きいのは確かだが、制度を変えただけでは解決しない。
- 塾:自分は独身なので、好きな研究ができていれば当面はこれでいいと思っている。
- 塾:自分は妻子がいるが好きな研究をしている。但し、回りをみてみると給与は少ないと感じる。もっと権利を主張してもいいのかもしれない。
- 塾:「好きな研究ができればいい」という考え方が、博士課程進学者を減らしている一因ではないか?我々がそういう状況を作っているのなら、我々がどうすべきかを考え、発言すべきではないか?でも、表だってそんなことは言えない・・・。
- 大:仲間内でこそ本音で意見を言い合える。仲間がいること自体が非常に重要。日本の任期問題は対象療法になっている。以前ポスドク10万人計画を政府が立ち上げたが、ポスドクが増えた後の対策を用意していなかった。その時代に博士となった人達は30~40代の頃に非常に厳しい状況に陥ったが、その時の経験を糧に50代になって良い仕事をしている人は多い。
- 塾:若手が自由に研究できるかどうかは、研究統括者(PI)の姿勢に依存するのではないか。世代間競争になるなら、若手にインセンティブを多くする制度を政府が設けて欲しい。
2021-11-24
専門基礎研究塾 第7回大隅塾談話会を開催
2021年11月22日に、専門基礎研究塾 細胞科学分野では、第7回大隅塾談話会を開催致しました。
話題提供:野田 昌晴 生体恒常性研究ユニット特任教授
話題: "皆さんの参考にならない特異例について"
今回、科学技術創成研究院・生体恒常性研究ユニットの野田昌晴特任教授に、「皆さんの参考にならない特異例について」というタイトルで、ご自身の研究史や研究者としての心掛けについてお話しいただきました。野田先生は、公害問題の解決を目指して京都大学工業化学科に入学したものの、勃興しつつあった分子生物学に魅せられて大学院博士課程では医化学第二沼正作教授の研究室に入室されたそうです。そこでエンケファリン前駆体、ニコチン性アセチルコリン受容体、ナトリウムチャネルの遺伝子クローニングと機能解析の研究を進め、分子神経生物学の分野で華々しい成果を上げられました。その後、ドイツ・マックスプランク発生生物学研究所のBonhoeffer教授の研究室で視神経の視蓋への領域特異的投射に関する神経発生学の研究を行い、帰国後は留学時代の研究テーマを発展させた「網膜の領域特異化」に加えて「受容体型プロテインチロシンホスファターゼ」の研究、機能未知だった「Naxチャンネル」の研究という3つのテーマを27年間にわたって継続的に展開されました。東工大では、個体の恒常性維持機構について、特に血圧と肥満に関して、脳機能の果たす役割を中心に研究を続けておられます。研究者として成功するためにはという質問に対して、「特に若い時は根拠のない自信を持とう」、「研究論文や研究費申請書は読む人の心を揺さぶるくらいの完成度を目指そう」、「研究がうまくいかなくても命まではとられないので悩みすぎる必要はない」と野田先生は仰いました。そして、大量のデータ・論文が作り出される昨今だがコンピューターの力も借りてそれを総合的に理解し、問題解決戦略が立つかぎりは研究を続けたい、それがこれまで研究を支えてくれた人たちに対する使命でもあると仰いました。オンライン開催でしたが膝を突き合わせて話していただいているような親密な語り調子で、機知に富んだ笑い話も交えつつ、困ったことがあればいつでも野田研に来てくださいという言葉で締めていただきました。塾生一同にとって大変“参考になる”会となりました。
2021-11-16
専門基礎研究塾 細胞科学分野 コロキウムを開催
2021年11月9日に、コロキウムが開催されました。
演者:Damien Hall博士(Assistant Professor, WPI Nano Life Science Institute, Kanazawa University)
演題: "New biological concepts from multi-scale biophysical simulations"
Hall博士は長らくタンパク質フォールディング、シャペロン、アミロイドなどに関して生物物理的アプローチ(実験とシミュレーション両方)で研究しており、その最新の成果を発表してもらいました。41名の聴衆の方がコロキウムに参加し、講演途中も含め活発なディスカッションが行われました。
2021-11-16
専門基礎研究塾 有機化学分野 第7回Interactive Seminar
2021年10月30日、第7回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は本塾塾生 Catti Lorenzo 博士(東京工業大学)
演題: "Organic Synthesis from the Viewpoint of a Supramolecular Chemist: Construction, Assembly and Application of Programmed Molecules"
でした。
超分子的分子集合体を形成し、その中で化学反応を起こさせる"ナノフラスコ"を作る内容の興味深い話でした。前半はレゾルシン[4]アレン六量体を合成し、その中で見事にテルペンの環化やカルボニル−オレフィンメタセシス反応が起きること、さらによりよい触媒活性を目指す方法が紹介されました。後半では光照射を契機として、空孔内のゲスト分子が放出される事例が述べられました。参加者14人、セミナーとディスカッションを楽しみました。
2021-11-2
専門基礎研究塾 細胞科学分野 コロキウムを開催
2021年10月11日に、コロキウムが開催されました。
今回の演者は 古賀 信康 博士(自然科学研究機構 分子科学研究所 准教授)
演題: "合理設計による新規タンパク質配列空間の探索"
古賀先生には、近年進展著しいデノボデザインタンパク質の現状と今後の展望について話していただきました。タンパク質の構造予測の発展に伴って生命がもっていない新規タンパク質を創れるようになっており、タンパク質を(主鎖を含めて)ゼロから設計する手法と、これを用いた新規タンパク質配列空間の探索についてのお話は非常に興味深いものでした。117名と非常に多くの方が参加し、講演途中、講演後に塾生を交えディスカッションが行われました。
2021-10-28
広域基礎研究塾 2021年度第4期生ワークショップ「未来社会と自身の研究との繋がりを考える」
2021年10月25日(月)13時30分~17時に、広域基礎研究塾の2021年度4期生への本ワークショップを、本学の未来社会DESIGN機構と基礎研究機構との共催で行いました。コロナウイルス禍を受けて、昨年度に続き、オンライン会議システムZoomによる対話と、仮想付箋システムMIROによるグループワークを併用しました。本ワークショップは、塾生個々の研究を俯瞰的に見つめ直す機会を提供し、自身の研究内容と未来社会との繋がりについて新たな気付きを促すことを目的としています。今回は、「未来のシナリオ」実現のために,どのような科学・技術,社会の仕組みが求められるかを検討・抽出し、未来シナリオを再構成してもらうことを通じて、俯瞰力、創造力、他者と協働する力を養成することを企図しました。
ワークショップは次のように進行しました。広域基礎研究塾の大竹塾長からの本ワークショップの趣旨の説明後に、未来社会DESIGN機構(D-LAB)の新田上席URAから具体的な作業の説明がありました。16名の4期生と昨年のWSに不参加の3期生2名の合計18名の塾生は、5つのグループに分かれました。
グループ内のアイスブレークとして、各メンバーの1分間での自己紹介(氏名、所属、研究内容、「コロナ禍を機に始めたこと」)、グループ名の決定、事前課題の内容共有を行いました。その後、全員が集合し、グループ毎に共有した課題を発表しました。なお、事前課題として、D-LABから提示された未来シナリオ「おうち完結生活」がなぜ前倒しされたのか、前日までにグループ毎にメンバー各自が付箋ソフト「MIRO」を使って、課題の付箋を作成したものを使用しました。
本番のグループワークの最初の作業としては、未来シナリオ「コミュニティを自由に選び、つくれるようになる」につき、「実現のために必要な課題」を一人5つ程度提案し、グループ内で共有しながらKJ法を使って課題を分類し、グループとして課題を2~3つに絞り込みました。次に、各グループで決めた解決すべき課題を要素に分解し、さらに構造化しました。ここでは、費用や時間の制限を設けず、自由な発想で議論を交わすことに集中しました。また、必ず自分の研究に結び付く要素を加えること、科学技術要素だけでなく、社会制度や価値観など多様な観点からの要素を加えることが求められました。次いで、上記で整理した内容から、それらが実現したらどんな未来がやってくるか、未来シナリオ「コミュニティを自由に選び、つくれるようになる」の再構築を行いました。最後に全員が集合し、各グループの代表が課題要素の構造化と再構築した未来シナリオの詳細について発表し、質疑応答・意見交換を行いました。
ワークショップに参加した塾生の多くは、最初こそ慣れないオンラインワークショップに戸惑いを見せていましたが、ツールの使用方法に慣れ、アイディア出しからディスカッションに進むにつれて盛り上がり、最後の発表会では短時間の議論とは思えない非常に深掘りした内容が披露されました。質疑応答も活発に行われましたが、もっと時間があれば研究者の交流の場としてさらによかったと感じました。ワークショップ終了後の懇親会はこうした事案を補完する絶好の場なのですが、コロナ禍で開催できなかったのは心残りであり、別の機会に交流の場が設定できればと考えています。
2021-10-22
広域基礎研究塾 2021年度「西森先生を囲む会」
広域基礎研究塾は、2021年10月18日15:00~17:00に「西森先生を囲む会」をオンラインで開催しました。この会の目的は、世界的に著名な研究者から、ご自身の半生や研究ヒストリー、若手研究者への想い等、普段聞くことが出来ない話題をご提供頂き、聴衆となる広域塾生が、講演や質疑応答の中から新たな研究目標を構築するためのヒントや研究推進への活力を得ると共に、キャリアパスの構築に役立てることにあります。 今回は、基礎研究機構の専門基礎研究塾(量子コンピューティング分野)の塾長である西森秀稔特任教授をお招きし、ご講演頂きました。参加者は、授業等でやむを得ず不参加の7名を除く塾生14名と、昨年度都合により参加できなかった3期生2名を加えた計16名でした。西森先生からは、高校・大学時代の過ごし方、PD時代の奮闘、研究の転換期とその背景、研究の進展に伴う社会との向き合い方の変化など、多岐に渡る貴重なメッセージを頂戴しました。塾生は終始強い興味を示しながら西森先生のお話を拝聴し、質疑応答のセッションでは、塾生からのさまざまな質問に対して西森先生が一つ一つ丁寧にご回答されていたのが印象に残りました。以下に、質疑応答の中から幾つかをご紹介します。
- Q:研究に対する好奇心はどこから生み出されるのか?
- A:理論系であったので、人との対話から刺激を受けたり、ヒントを得たりしたことはあるが、研究への好奇心は自分自身の内面から湧き出るものが殆どで、外的要因は無かった。但し、工学系や実験系ではそうはいかないとは思う。
- Q:一般の人に研究内容の凄さを理解してもらえるような訴求方法は?
- A:研究内容の凄さよりも、面白さを前面に説明したら、結果的に凄さも伝わるのではないか?研究が世の中に役立つかどうかは自分自身ではコントロールできないので、内在的な動機を語ることが重要と思う。社会へのインパクトを意識することは基礎研究を行う上でも決してマイナスにはならないと思う。
- Q:筋道を立てた文章が書けない学生の指導はどうすればいいか?
- A:以前は学生の論文には徹底的に不明点をコメントし、具体的な修正案を示さずに学生自身に考えさせることを繰り返し行った。また、締切に遅れたら受理しないよう厳しく指導した。尤も、現在ではハラスメントになりかねないので要注意。
- Q:10~20年後に社会に変革を起こす基礎研究を行うには、日本の大学は何をすべきか?
- A:近年日本政府が量子戦略を策定し、大型予算を組んでいるが、大規模研究機関に予算をつけさえすれば良いと思っている節がある。大学で人材教育と先端研究とを並行して行わないと質の向上は見込めない。中国のある研究機関では、多くの研究者を解雇し、欧米帰りの優秀な人材を多数ヘッドに据えることで組織に劇的変化を起こした。こうした変化には功罪があるものの、数字上は大きく発展した。米国でも人材登用は活発である。一方、日本ではそうした動きは殆どない。
- Q:日本の研究環境が劣化していると言われているが、以前と現在とでは何が違うのか?
- A:自分の周囲に限った話だが、以前は教育と研究の2つの業務にほぼ限定されていた。現在では、上記に加えて、外部研究資金の獲得のため短期的な研究や教育プログラムが増えていることや、法人化に伴い大学内での意志決定・管理のための業務に割く時間が増えていることが挙げられる。若い内は面白いと思う研究に没頭すること。大変だけど好きなことをやらせてもらって楽しいと思わないと、閉塞感のみが残ってしまうだろう。
2021-10-20
広域基礎研究塾 2021年度第4期生 研究分野紹介発表会
2021年10月13日13時30分~16時40分と10月14日 9時30分~15時20分に、広域基礎研究塾の2021年度4期生21名による研究分野紹介発表会を、オンライン会議システムにより開催しました。この発表会は、塾生が互いの研究内容を知り、コミュニケーションを深めることを目的としています。一人20分の持ち時間で各塾生が自分自身のこれまでの研究テーマについて専門分野以外の研究者に分かり易く約7分間で発表し、残りの時間で質疑応答する形式で実施しました。異分野交流に特有な課題として、発表者は自分自身の研究における興味やスタンスを専門外の相手に伝えることの難しさやもどかしさをどのように克服するのか、が挙げられます。また、聴衆は発表者の意図を理解しながら自分の意見を伝えるにはどのように発言すればいいのか、どのような角度から質問するのが適切なのかという課題も存在します。ここでは、参加者全員が質問に立ち、合計70件の質疑応答が活発に繰り広げられ、コロナ禍に負けることなく、上記課題についての貴重な体験を参加者全員で共有できたと思います。また,若手研究者が集まって研究や将来の大学の在り方について話そうという機運が盛り上がったことも大きい果実でした。
2021-10-18
専門基礎研究塾 有機化学分野 第6回オンラインセミナー
9月25日、第6回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は、本塾ファシリテーター 小坂田耕太郎特任教授(東京工業大学)
演題: "Elucidation of transmetalation mechanisms of Semmelhack reaction and Suzuki-Miyaura coupling. Is it so creative?"
でした。
現代の有機合成、高分子合成を革新したクロスカップリング反応の歴史が紹介されました。その研究の夜明けとも言うべき1960年代、重要な素過程の一つであるトランスメタル化反応に関する山本明夫博士(本学栄誉教授)の研究(ジアルキル遷移金属錯体の調製)、山本隆一博士(本学名誉教授)による高分子分野への展開など、その歴史的経緯、未来への展望でした。参加者13人、セミナーとディスカッションを楽しみました。
2021-10-1
広域基礎研究塾 2021年度4期生オリエンテーションを開催しました
基礎研究機構広域基礎研究塾では、2021年10月1日にオンラインにて2021年度4期生のオリエンテーションを開催致しました。4期生21名の内、17名が出席しました。当初は、大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルームにてオンライン併用の開催を予定していましたが、台風16号による交通機関への影響等を鑑み、全面オンラインでの開催に変更しました。そのため、入塾証は個別面談の際に授与することになりました。オリエンテーションの式次第は以下の通りです。
- ・アジェンダの説明 (伊能副機構長)
- ・広域塾の目的と活動内容 (大竹塾長)
- ・広域基礎研究塾スタッフの自己紹介
- ・塾生自己紹介
- ・誓約書の署名について(伊能副機構長)
- ・発表スライドについて(伊能副機構長)
- ・研修期間外のイベント
- ・質疑応答
大竹塾長の話:
東工大が皆さんに何を求めて基礎研究塾を設置したのか、なぜ皆さんに入塾してもらったのか、について説明したいと考えています。東工大は指定国立大学法人に指定され、教育・研究・社会貢献の中核大学としての責任を果たしていくことになりました。研究については、ガバナンスを強化し、外部から研究資金を導入し、基礎研究に還元していくことを東工大の基本的な構想としています。また、東工大の強みとして3つの重点分野と3つの戦略分野を設けて取り進めていくことや、COVID-19をはじめとする喫緊の社会課題への対応、科学技術のファシリテーターとして、未来社会をデザインしていくことも大切です。これらの構想の一環として、本学は世界の第一線で活躍する基礎研究者を育成するための基礎研究機構を設置しました。
平成26年度の文部科学省の調査では、助教の場合に研究エフォートは6割と言われています。専門基礎研究塾ではこれを9割にするため、人、資金、スペース等のリソースを投じて、基礎研究に没頭できるようにしようとしています。また、広域基礎研究塾でも3カ月間ではありますが、やはり研究エフォートを9割に上げ、今後の研究テーマを真摯に考えてもらいたいと考えています。そのため、広域塾の活動は必要最小限に絞り、皆さんの時間をあまり縛らないこととしました。その一方で、限られた広域塾の活動にはしっかり参加して欲しいと思っています。また、来年1月以降には任意参加の研修セミナーも種々用意します。ここで、入塾期間中の活動として最も重要なことを2つ述べたいと思います。第一に、10年先を見据えた自分自身の研究テーマについて十分に時間をかけて練り上げ、研究テーマ設定発表会でその一端を発表することです。第二に、今後の研究に臨むために大切な人的ネットワークを築いていくことです。第1~3期生では、広域基礎研究塾を修了後に継続して交流会を開催するだけでなく、互いの得意分野を活かした異分野融合の共同研究を開始し、競争的資金獲得に向けて活動しているグループも既に複数生まれています。若手研究者育成の観点から、論文数等も継続調査の対象にはしますが、より重要なこととしてチャレンジングな研究に立ち向かう姿勢が必要と考え、異分野への挑戦や異分野融合を形にしていく行動を評価したいと考えています。
この3カ月の間が、塾生の皆さんにとって将来の研究テーマを考える貴重な秋になるよう、皆さんを支え、共に楽しく過ごして行きたいと考えています。広域基礎研究塾の塾生としての誇りをもち、研鑽に励んでください。
2021-9-2
専門基礎研究塾 有機化学分野 第5回オンラインセミナー
8月28日、第5回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は、西川俊夫教授(名古屋大学)
演題: "Toward Collective Synthesis of Hawaiian Marine Natural Products"
でした。
ハワイの海産天然物として単離構造決定された抗腫瘍性天然物オシラトキシン、アプリシアトキシンの関連化合物の網羅的合成を通じ、自然界の生合成経路の秘密に分け入るとともに、また、有用な生理活性を発見に至らんとする研究をご紹介頂きました。
参加者14人、セミナーとディスカッションを楽しみました。
2021-8-27
専門基礎研究塾 有機化学分野 第4回オンラインセミナー
7月24日、第4回Interactive Seminarが行われました。
今回の話題提供者は、国際アドバイザー Lukas Hintermann教授(ドイツ、ミュンヘン工科大学)
演題: "The Complexity of Catalyst Systems for Selective Organic Synthesis"
でした。
内容は、SDGsと関連して有機合成化学の今日的な研究課題の一つである“化学量論反応から触媒反応へ”を目指す上で、有効な触媒を発見に向け、その達成効率を上げる技法を例示したものでした。時差を乗り越え、参加者17人、セミナーとディスカッションを楽しみました。
2021-8-25
量子コンピューティング分野の元塾生の坂東優樹研究員らの研究が東工大ニュースに掲載
専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野の元塾生の坂東優樹研究員と西森秀稔特任教授の研究内容が東工大ニュースに掲載されました。
坂東優樹研究員(研究当時)と西森秀稔特任教授は、量子アニーリングに関わる量子磁性体の性質をスーパーコンピュータ(古典コンピュータ)でシミュレートし、そのデータが量子力学の理論と合わないことを示した。
東工大ニュース:量子アニーリングは古典コンピュータでシミュレートできない
2021-7-28
有機化学分野新規入塾
7月1日付で、専門基礎研究塾 有機化学分野に新たに塾生1名(Lorenzo Catti助教)が入塾しました。鈴木塾長から塾生に入塾証が授与されました。
左から小坂田耕太郎特任教授、Lorenzo Catti助教、鈴木啓介塾長
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2021-7-6
細胞科学分野新規入塾
基礎研究機構 専門基礎研究塾 細胞科学分野の入塾式を開催しました。 久堀徹基礎研究機構長から基礎研究機構についての説明があり、大隅良典塾長から塾生への激励と入塾証の授与が行われました。
左から大隅良典塾長、野島達也特任助教、久堀徹基礎研究機構長
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2021-6-26
専門基礎研究塾 有機化学分野 第3回オンラインセミナー
専門礎塾有機化学分野では、6月より月に1回、セミナーを定期開催することにしました。今回、6月26日、話題提供者として塾生である安藤吉勇博士、Ambara Pradipta博士を第3回オンラインセミナーを行いました。国際アドバイザーBiing-Jiun Uang(汪炳鈞)名誉教授[台湾清華大学 (NTHU)]、Lukas Hintermann教授(ドイツ、ミュンヘン工科大学)、Oliver Reiser教授(ドイツ、レーゲンスブルグ大学)の参加のもと、
- 安藤 博士
”Photoredox reaction of naphthoquinones: Total synthesis of spiroxins” - Pradipta 博士
“Reactivity of acrolein released from cancer cells: Application for selective cancer therapy and diagnosis”
のセミナーを楽しみました。活発な議論があり、背景の異なる研究者からの(想定外)質問等があり、発表者にとっては今後の研究に役立つ(かもしれない)機会になったと思います。
2021-6-1
東工大ニュース:有機化学分野の安藤吉勇助教と細胞科学分野の山崎章徳特任助教が令和2年度手島精一記念研究賞を受賞
専門基礎研究塾 有機化学分野の安藤吉勇助教と、細胞科学分野の山崎章徳特任助教が、令和2年度手島精一記念研究賞(研究論文賞)を受賞し、東工大ニュースに掲載されました。
専門基礎研究塾 有機化学分野 安藤吉勇 助教
論文題目:Total Synthesis of Actinorhodin
抗生物質アクチノロジンは放線菌が産生する赤色色素であり、Ⅱ型ポリケチドを代表する天然有機化合物です。ピラノナフトキノンが二量化したC2対称性をもつ特異な化学構造を有し、生理活性、構造に関する興味から長らく化学合成の標的となっていましたが、単離報告から70年以上経過した最近まで、合成はなされていませんでした。
安藤助教は、その全合成を初めて達成し、これにより推定に留まっていたその絶対構造を確定しました。本成果はAngewandte Chemie International Editionに掲載され、大きく注目されるところとなり、2018–2019年のダウンロード数は上位10%以内に入りました。今回、この業績に対して手島精一記念研究賞(研究論文賞)が授与されました。
専門基礎研究塾 細胞科学分野 山崎章徳 特任助教
論文題目:Liquidity Is a Critical Determinant for Selective Autophagy of Protein Condensates
オートファジーは細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つであり、特定のたんぱく質やオルガネラを狙い撃ちして分解する「選択的オートファジー」も知られています。選択的オートファジーは病原性のたんぱく質を分解することで疾病の発症を抑えていると考えられてきましたが、どのような状態のたんぱく質を効率的に分解できるのか、よく分かっていませんでした。
山崎特任助教ら研究グループは、オートファジーはたんぱく質が液-液相分離した液体状の会合体(液滴)を選択的に分解するのが得意である一方、凝集、固体化したたんぱく質の分解が不得手であることを発見しました。
選択的オートファジーがたんぱく質液滴の分解に長けている一方、たんぱく質凝集体の分解が不得手であるという今回の発見は、神経変性疾患の予防、治療薬の開発を進める上で、オートファジーの活性化だけでは不十分であり、凝集体を液滴状態へと変化させる薬剤開発が重要であることを提起するものです。
本研究成果は、2020年1月29日に米国科学誌「Molecular Cell」のオンライン速報版で公開されました。今回、この業績に対して手島精一記念研究賞(研究論文賞)が授与されました。
2021-4-30
西森秀稔特任教授が紫綬褒章を受章
2021年春の褒章において、西森秀稔特任教授が紫綬褒章を受章しました。
紫綬褒章は、学術研究や芸術文化、技術開発において功績をあげた者に贈られるものです。
内閣府発令 令和3年春の褒章
東工大ニュース:西森秀稔名誉教授が紫綬褒章を受章
2021-4-5
広域基礎研究塾 2020年度 研修後アンケート報告
基礎研究機構広域基礎研究塾の第3期生15名に対して3か月の研修後にそれぞれ無記名でアンケートを行いました。 調査項目は大きく分けて以下の5項目です。(1)研修会の効果、(2)研究に費やせる時間、(3)塾生間のネットワーク形成、(4)印象に残った研修会イベント、(5)自由記述。アンケート回収率は93%でした。
最初の調査項目、研修会の効果は概ね肯定的でした。特に異分野研究の交流に関して、貴重な機会、刺激になった、違う角度からの意見をもらった、などの声が多く聞かれました。それに関連して、塾生間のネットワークに対しても、終了後にも集まる機会を持ちたい、長期的な関係性を構築したい、など、異分野に亘る新しい人脈・視野を広げたいという意欲的な希望も出ています。研究に費やせる時間については、エフォート率が30%~90%と塾生間に大きな差異があり、研修中も研究時間の確保が難しかったという意見が多くありました。これはコロナ禍での授業に係る時間の増加も影響したためと考えられます。印象に残った研修会イベントとしては「研究テーマ設定発表会」が一番でした。他の塾生や一流の研究者から得られた多様な考え方を参考に、自らの研究テーマを俯瞰して将来の研究テーマを真摯に構築した想いが伝わってきます。なお、2020年春以来の新型コロナウイルス感染拡大のため、研修会イベントの一部がオンライン開催となりました。塾生同士の交流を深める機会が十分でなかったことを多くの方が自由記述で指摘していました。
これらの課題を実直に受け止め、今後の広域塾がより良い塾として成長していけるよう1つ1つ改善していく所存です。
2021-4-5
広域基礎研究塾 2020年度「新研究挑戦奨励金」報告
基礎研究機構広域基礎研究塾では、2020年度は新型コロナウイルス感染防止のために規模を縮小し、第3期生 15名を受け入れました。塾生は入塾期間3か月の間に自身の専門の先の先を観た研究テーマや、他の塾生と共創して未来社会との繋がりを意識した研究テーマを練るなど研鑽を積んできました。
ところで、専門基礎研究塾の塾生とは異なり、広域基礎研究塾の塾生は3か月の入塾期間が終了すると、通常の系・研究室業務に戻るため、新しい研究テーマを実施するための予算は存在しませんでした。そこで、広域基礎研究塾では塾生が練り上げた挑戦的な新テーマを実施段階に移し、若手研究者の活性化と本学の長期的な研究力向上に資することを目的として、執行部、担当事務の方々の賛同と暖かい支援を得て、2019年に国立大学改革強化推進補助金を財源とした「新研究挑戦奨励金」を創設しました。
昨年に引き続き、今年度の塾生に対しても挑戦的な新研究テーマを募集したところ、募集期間10日間という短期間にも関わらず15件の応募が集まりました。この内、異分野も含めた塾生がチームを組んで行う研究テーマが4件提案されたのは特筆に値します。実際の奨励金の用途としては、実験等研究に際して使用する物品関係に多く利用されました。これらの研究への支援は今年度のみとなりますが、多くの塾生たちがこの挑戦的萌芽を今後に生かせるよう、基礎研究機構は長い目でその成長を応援していきたいと考えております。
関係各位におかれましても、若手教員の挑戦への後押し、そして暖かいご支援ご協力を頂けますようよろしくお願いいたします。
2021-4-1
細胞科学分野新規入塾
基礎研究機構 専門基礎研究塾 細胞科学分野の入塾式を開催しました。 久堀徹基礎研究機構長から基礎研究機構についての説明があり、大隅良典塾長から塾生への激励と入塾証の授与が行われました。授与後は、大竹尚登広域基礎研究塾長を含めて、全員で集合写真を撮影しました。
左から大竹尚登広域基礎研究塾長、久堀徹基礎研究機構長、川口紘平特任助教、三輪つくみ研究員、國重莉奈特任助教、大隅良典塾長
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2021-3-25
広域基礎研究塾 2020年度「大隅先生を囲む会」
2021年3月25日15:00~17:00に、広域基礎研究塾では「大隅先生を囲む会」を開催致しました。この会の目的は、世界的に著名な研究者から、ご自身の半生や研究ヒストリー、若手研究者への想い等、普段聞くことが出来ない話題をご提供頂き、聴衆となる若手研究者は、講演や質疑応答の中から自分自身の発想のヒントや研究への活力を得ると共に、キャリアパス構築に役立てることを目指すことにあります。
今回は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典栄誉教授をお招きし、ご講演頂きました。本年度塾生から12名と、昨年度参加出来なかった塾生1名の、合計13名が参加しました。コロナウイルス感染が未だ収まらない状況での開催のため、十分な間隔で並べた座席に参加者はマスク着用の上で着席して本会に臨みました。大隅先生からは、高校・大学時代の過ごし方、助手時代の研究の転換期とその背景、研究室を主催した後の新たな研究「オートファジー」への取組み、ノーベル賞受賞に至る多くの共同研究者との関係など,多岐に渡る貴重なメッセージを頂戴しました。塾生は終始強い興味を示しながら大隅先生のお話を拝聴し、質疑応答のセッションでは、塾生からのさまざまな質問に対して大隅先生が一つ一つ丁寧にご回答されていたのが印象に残りました。
コロナ禍の影響により、残念ながら今回は交流会の開催を見送りましたが、ご講演を締めくくる言葉として、「若者へのメッセージ」をご紹介頂きました。若手研究者のこれからの人生の様々な局面で大変参考になる、いずれも含蓄の深い言葉ですので、以下に紹介致します。
- 1.長い人類の歴史の中で自分の生きている時代を考えよう
- 2.権威や常識に囚われず、自分の興味を抱いた疑問を大切にしよう
- 3.論文やあふれる情報からでは無く、自然、現象から出発しよう
- 4.人と違うことを恐れずに、自分の道を見極めよう
- 5.流行を追うことはやめよう、競争だけが科学の原動力ではない
- 6.自分の目で見て確かめ、小さな発見を大切にしよう
- 7.“役に立つ“とは何かを考えよう
- 8.最初の疑問に繰り返し立ち返ろう
- 9.目の前の研究の先に何があるかを考えよう
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2021-3-5
基礎研究機構広域基礎研究塾主催 塾生向けセミナー開催
基礎研究機構は、国内外のトップレベルで活躍できる次世代を担う研究者を育成・輩出する活動の一環として、2021年3月5日(金)13時~14時30分に、「塾生向けセミナー」をオンライン開催しました。ここでは、学外から演者をお招きし、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の本年度塾生の方々32名を対象に、今後の研究活動の糧となる極めて有用なお話を伺う機会を設けました。
「研究力」の向上に、何が必要か? ~さまざまな指標から読み解く~
小泉周 先生
小泉先生は慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学医学部生理学教室助手、ハーバード大学医学部留学を経て、自然科学研究機構生理学研究所の准教授になられました。文部科学省学術調査官、JST科学コミュニケーションフェロー等を歴任された後、自然科学研究機構の特任教授・統括URAとして大学の研究力分析手法の開発や社会インパクトに関する分析等、数々の政府政策部会等でご活躍されており、本学の研究・産学連携本部アドバイザーにもご就任頂いております。今回は、日本の大学が世界からどのように見られているのかTHE世界大学ランキングの指標を使って紹介頂いた後に、逆説的な教訓として大学ランキングを上げるためには何をすべきか説明して頂きました。また、研究者の持つべきスキルセット、異分野交流・国際交流の重要性を、ご自身の経験談も踏まえて広範囲な観点から解説して頂きました。
なお、今回のセミナー終了後に無記名アンケートを実施したところ、参加32名の塾生中27名から回答を頂きました。85%以上の方から「講演内容の理解が進んだ」との回答を得ることができました。来年度は、今回と同種の講演会の開催は勿論のこと、新たなテーマの講演会も企画していきます。
2021-2-5
基礎研究機構 2020年度成果報告会 開催
最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が設立した基礎研究機構(久堀徹機構長)の2020年度成果報告会を2月5日16:30~17:15に開催しました。今回は新型コロナウイルス感染防止のため学内限定のオンライン会議としましたが、益一哉学長ら本学関係者にご出席頂き、70名を超える催しとなりました。
基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」(大隅良典塾長)、「量子コンピューティング分野」(西森秀稔塾長)、「有機化学分野」(鈴木啓介塾長)の3つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任助教が塾生として3ヵ月間研鑽する「広域基礎研究塾」(大竹尚登塾長)から構成されます。
久堀機構長
成果報告会の司会進行は伊能副機構長により行われ、最初に久堀機構長の挨拶、次いで益学長から塾生への激励がありました。
益一哉学長
新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延し、基礎研究機構もその影響を受け、各塾関係者の方々には大変ご苦労頂いた。本機構の将来構想については日頃から検討を重ねており、2022年度からの第4期国立大学中期目標・中期計画に落とし込んでいくことを執行部では考えている。日頃の成果を直接聞かせて頂く機会として本報告会を楽しみにしていたが、緊急事態宣言によりオンライン開催となったのは残念であった。次回は是非皆さんと対面で議論を深めることができるよう祈念している。
続いて、3つの専門基礎研究塾から、大隅良典塾長(細胞科学分野)、西森秀稔塾長(量子コンピューティング分野)、鈴木啓介塾長(有機化学分野)による各塾の本年度活動について、さらに、広域基礎研究塾から大竹尚登塾長による本年度活動について、それぞれ紹介がありました。
大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)
本専門塾のお陰で研究センターの研究活動が極めてスムーズに進んでいることに感謝したい。本年度は2名のファシリテータと1名の塾生が国内外の然るべき無期雇用ポジションを得て転出した。本専門塾の活動は以下の4つ。来年度も本年度と同様に4つの活動を継続して行きたい。
- 1. 談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。今期はコロナ禍の影響により開催が困難だったが、オンラインで1回開催。今後はオンラインで積極開催したい。
- 2. コロキウム:国内外の講師を招き、最先端の研究成果を紹介頂く。今期は未開催。今後は難しいとは思うが講師を招いて行きたい。
- 3. 塾生研究費:研究費として有効活用。
- 4. 共同実験室・共同利用機器:共同利用機器の整備継続。各研究室の機器共用化も実施中。
西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)
研究ユニットとしては学内外のメンバーを含めて多人数で活動しているが、当専門塾では少数での活動としている。当専門塾の活動は以下の2つ。今後も今期の活動を継続すると共に、オンライン国際会議の開催や参加も検討している。
- 1. セミナ-:国内外から幅広い研究者を招き、話題提供頂く。今期はオンライン開催。
- 2. 塾生研究費:出張が困難だったこともあり、今期はリモートワーク環境整備に充てた。
鈴木塾長(専門基礎研究塾 有機化学分野)
有機合成化学を「炭素原子を基本としたミクロの建築学」として捉えている。当専門塾をサロンとして活用するようにして行きたい。当専門塾の活動は以下の2つ。
- 1. インタラクティブセミナ-:国内外からのスピーカーによる研究紹介。今期は内外2名の講師によりオンライン開催。
- 2. 塾生研究費:塾生の消耗品購入や学会参加。今期は学会参加が困難なため、消耗品購入。
大竹塾長(広域基礎研究塾)
当広域塾は3ヵ月の期間に限定し、塾生となる若手助教に研究エフォートを上げて貰い、自分のテーマを深く考えることを目的としている。今期はコロナ禍のために第3Qのみの開催となり、塾生15名での活動となった。コロナ禍の中での塾生選抜には各学院の学院長や学院事務に大変ご助力頂いた。広域塾の今期プログラムは、1.オリエンテーション、2.個別面談、3.研究分野紹介発表会、4.WS「未来社会と自身の研究との繋がりを考える」、5.「西森先生を囲む会」、6.研究テーマ設定発表会、7.「大隅先生を囲む会」を設定し、6まで実施済み、7は来月を予定している。研究テーマ設定発表会ではそれぞれの塾生が広域塾の活動を通して考案した新たな研究テーマを発表したが、企画に留まっては意味が薄れる。そこで、今年も「新研究挑戦奨励金」を大学から拠出して頂き、塾生の提案と機構での審査を経て11の個人研究と4つの共同研究を採択し、現在実施している。塾生に対する匿名アンケートでは、オンライン開催中心で交流の機会が少なかった本年度の方が、昨年度よりもポジティブな意見の比率が高かった。広域塾では、同世代の異分野研究者との交流・気づきを通じて若手が成長していくのが実感でき、且つ、将来の連携の足がかりとしても機能していると感じられる。現在、機構は科学技術創成研究院内に置かれているが、今後は学院等との強い連携が重要であると考えている。
最後に渡辺理事・副学長の挨拶により成果報告会を終えることができました。
2021-2-5
基礎研究機構広域基礎研究塾主催 塾生向けセミナー開催
基礎研究機構は、国内外のトップレベルで活躍できる次世代を担う研究者を育成・輩出する活動の一環として、2021年2月5日(金)13時~16時に、「塾生向けセミナー」をオンライン開催しました。ここでは、学内からお二人の演者をお招きし、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の本年度塾生を対象に、今後の研究活動の糧となる極めて有用なお話を伺う機会を設けました。
知的財産権の基礎 ~特許権を中心に~ 林 ゆう子 先生
林先生は本学理学部化学科を卒業、大学院総合理工学研究科を修了され、企業研究者や本学教員をご経験の後、本学産学連携推進本部の産学連携コーディネーターとして本学の知的財産権の獲得や産業界への技術移転で長年多大な功績を挙げて来られ、放送大学における知的財産の講師も歴任されております。現在は、本学研究・産学連携本部の特任教授としてご活躍されております。今回は、大学研究者が知っておくべき知的財産権として、特許権と著作権を中心に、各種用語の定義や理解しておくべき重要なポイント等を、実例を踏まえて大変分かり易くご講演頂きました。
東工大の研究構想について 渡辺 治 先生
渡辺先生は本学理学部情報科学科を卒業、大学院理工学研究科に進学された後、本学助手に着任されました。その後、本学で助教授、教授に昇進され、情報科学分野での研究・教育に多大な貢献をされてきました。2016年には情報理工学院長に、2018年からは理事・副学長に就任され、本学における研究と産学連携の推進にご尽力頂いております。今回は、東工大の研究構想について、3つのアクションプランとそれらの具体的な取り組みや、研究・産学連携・ベンチャースタートアップ等の支援組織・活動をご紹介頂きました。その後、フロアとの質疑応答を30分間行い、様々な話題について熱のこもった議論が展開されました。
なお、今回のセミナー終了後に無記名アンケートを実施したところ、参加28名の塾生中23名から回答を頂きました。2つのご講演に共通して、95%以上の方から「講演内容の理解が進んだ」、「他の若手教員にも受講を勧めたい」との回答を得ることができました。来年度は、今回と同種の講演会の開催は勿論のこと、新たなテーマの講演会も企画していきます。
2021-1-31
専門基礎研究塾 有機化学分野 第2回オンラインセミナー
専門基礎研究塾 有機化学分野では、若手育成を国際的な雰囲気で行うため、この度、国際アドバイザーとしてJeffrey Bode教授[スイス連邦工科大学(ETH)]、Lukas Hintermann教授(ミュンヘン工科大学)、Biing-Jiun Uang(汪炳鈞)名誉教授[台湾清華大学 (NTHU)]、Markus Tius教授(ハワイ大学)にご参加頂きました。
これを受け、1月23日にはBode博士を話題提供者とする第2回オンラインセミナーを行いました。同博士は2001年から鈴木研究室にポスドクとして在籍した経験がありますが、現在は有機化学と生命科学の境界領域で世界的に活躍しています。ちなみにもう一人の参加者、Hintermann博士もやはり同じ頃鈴木研究室のポスドクでした。
さて、講演はケミカルバイオロジーの中心課題、特定の一分子を観察する手法についてでした。最初のスライドは、禅問答のように品川駅の雑踏の写真で始まりましたが、その比喩するところは、細胞が多種多様な有機分子が高度に密集したミクロ空間だということです。、仮に(物騒な話ですが)ここでピストルが発射されたら、倒れた被害者はすぐ特定できるが、群衆に紛れ込んだ犯人を探すには硝煙反応に頼ることになる。そこで、細胞で言えば、光などの外部刺激で二つに分解するような前駆物質を考え、その分解物が性質を大いに異にし、超反応性化学種(銃弾に相当)と、ずっと遅く反応する化学種(硝煙に相当)である、という条件を満たすものはないだろうか?という謎かけでした。
一般に、有機分子が二分子に分解する際には、類似の反応性を持つ活性種が生成するので、参加者は非日常的な“お題”にさらされました。最初は戸惑ったものの、議論が進むうち、塾生をはじめ様々なアイデアが出されました。結局、明確な結論には至りませんでしたが、未だ海のものとも山のものともつかない題目を議論することは新鮮な経験でした。今後の活動のヒントになりそうです。
なお、出席予定だったハワイ大学のTius博士が、日付変更線をまたぐ時差(19時間)を勘違いして、、、という珍事もありましたが、次回以降に期待です。
2021-1-15
専門基礎研究塾 細胞科学分野 大隅塾研究発表・交流会
専門基礎研究塾 細胞科学分野では、細胞制御工学研究センターとの共催で、以下のオンライン研究交流会を開催致しました。
(1) 大隅良典 塾長・センター長の挨拶
(2) Alex May特任助教の研究発表
「Flicking the switch: how autophagy helps yeast cells adapt to respiratory growth」
(3) 田口英樹 教授の研究発表
「新生鎖の生物学」から見えてきた拡大し変容する蛋白質の世界
(4) オンライン交流会
開催に先立ち、大隅塾長から「こういう時期だからこそオンラインによる研究交流を活発に行い、自分達の研究を磨こう」と参加者を鼓舞する挨拶がありました。次に、塾生のAlex May特任助教が、酵母の代謝適応におけるオートファジーの役割に関する研究発表を行いました。酵母はグルコースが豊富な環境では解糖によってエネルギーを獲得するが、グルコースが枯渇するとエタノールを栄養源として酸素呼吸を行うようになります。その代謝適応にはオートファジーが重要で、セリンをリサイクルすることによってミトコンドリアの1炭素代謝経路を活性化し、ミトコンドリアのタンパク質合成を促進するのが一つの役割であるという内容でした。センターで導入した最新の超解像顕微鏡によるミトコンドリアの観察像なども紹介されました。オートファジーは異化のみならず同化の面でも重要であるという新しい見方が示され、大変興味深いものとなりました。
続いて、田口教授がこれまでの研究史を発表しました。学生時代からはじめた分子シャペロンの研究、タンパク質凝集体などの研究を通じて、タンパク質が安定な構造を獲得するしくみの理解を深めてこられました。その後、翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)に着目し、新生鎖の特定のアミノ酸配列が「翻訳の一時停止」や「mRNAの一部の配列が読みとばされる特殊な翻訳」を引き起こすことを発見しました。さらに、タンパク質の翻訳や折りたたみを制御する新しいしくみを明らかにするにつれ、これまで知られているタンパク質の世界は氷山の一角で、実は想像以上に多種多様な配列・構造・存在状態・機能のタンパク質の世界が存在していると考えるに至ったそうです。タンパク質がどのように形作られるかを一途に研究した結果、未開拓のタンパク質世界に気付くヒストリーは大変あざやかで、今後の研究の発展も楽しみです。最後に、この着想をもとに立ち上げた科研費学術変革領域研究(A)「マルチファセット・プロテインズ/拡大し変容するタンパク質の世界」の内容についても紹介していただきました。
2020-12-9
東工大ニュース:オートファジーが栄養ストレスを迅速に緩和する仕組みを解明
専門基礎研究塾 細胞科学分野のメイ・アレクサンダー特任助教らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの大隅良典栄誉教授、細胞制御工学研究センターおよびWorld Research Hub Initiative(WRHI)のメイ・アレクサンダー特任助教、モナシュ大学(オーストラリア)Monash Biomedicine Discovery InstituteおよびDepartment of Biochemistry and Molecular Biologyのプレスコット・マーク准教授の研究グループは、細胞が栄養環境の変化に対して細胞がより迅速に適応する上でオートファジーが果たしている生理学的な役割を具体的に明らかにした。
本研究では、栄養環境の変化というストレスに対してオートファジーが誘導され、結果としてミトコンドリアにおけるタンパク質合成の開始に重要なアミノ酸セリンが供給される、細胞の迅速な環境への適応が可能になるという、オートファジーの生理学的機能を初めて明らかにした。本成果によりオートファジーと代謝との密接なつながりが明らかとなった。今後はオートファジーと様々な疾患との関連について研究が進むことが期待される。
本研究成果は、10月7日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開された。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-12-1
専門基礎研究塾 有機化学分野 第1回インタラクティブセミナー
専門基礎塾有機化学分野(塾長鈴木啓介栄誉教授)では、有機化学を中心とした分野における若手研究者の育成を行っています。有機化学研究の両輪は、新しい物質を合成すること、解析すること、ですが、12月1日に本学特任教授である楠見武徳博士の講演、それを題材にした討論談話会を行い、上の問題を掘り下げることにしました。
楠見博士は、一貫して海洋生物由来の天然有機化合物を専門分野として研究され、徳島大学定年の後は、本学特任教授として学生の研究指導に貢献いただいています。
講演と討議はオンラインシステムを用いて英語で行いました。
最初に楠見博士が ”Determination of Absolute Stereochemistry by Modified Mosher’s Method”と題して講演をされました。
最初は、御自身の研究ヒストリーや専門分野について、留学先の米国コロンビア大学Koji Nakanishi教授をはじめとする人との出会いや懇親の様子や、御専門の貝、サンゴ、海綿などの海洋生物の写真をスライドに交えて楽しくご説明されました。
実際の研究内容と成果についても天然有機物は精製単離できる量が微量です。したがって、その分子構造決定、特に不斉炭素の絶対配置決定は、通常の有機化合物よりもはるかに困難です。1973年に米国のMosherは、不斉アルコールにMTPA官能基を結合させて生じるエステルのNMR(核磁気共鳴吸収装置)のシグナル位置のわずかな差異によって絶対配置を決める方法を提案しました。しかし、この事実についての理論的裏付けもなく、実例も少ないため信頼性に問題がありました。楠見博士は、多くの天然有機化合物でこれを用いて絶対配置の決定に成功し、Mosherの提案を実証しました。さらに、不斉炭素から遠い位置の水素によるNMRシグナルも絶対配置との相関が明確に見られること、アルコール以外にもスルホキシドを含む化合物などにも適用できることなどを次々に発見し、光学活性化合物の分子構造決定に高い一般性をもつ重要な方法を確立しました。
有機化合物の中でもとりわけ構造決定が困難な微量天然物の立体構造を決定したこと、信頼性が高く、簡便な方法を確立したことで、この研究は評価が高く、代表論文は有機化学分野ではまれなほど多い2800回の引用を誇ります。研究は、20㎎の化合物を正確に目的誘導体に変換する「合成」とNMRによる構造決定を行う「解析」の両方で議論の材料を提供しました。
塾長、塾生や参加教員から活発な質問がだされました。この方法が適用できる官能基について、さらに拡張できる可能性があるのか、測定に使う溶媒の影響など、重要な点が議論になりました。さらに、現在から今後に向けての取り組みとして、NMRによる測定とあわせて、円偏光二色性(CD)やX線結晶構造解析の結果との組み合わせや、分子軌道計算による最安定構造と実験結果との関連についても建設的な議論が繰り広げられました。参加者から、現在のスーパーコンピューターを用いると、従来の常識よりもはるかに精密な構造計算結果が得られることが紹介され、改めて理論化学と実験結果との再検討が成果を上げる可能性が示されました。
今回のイベントは、塾生には有機化学のすぐれた研究を追体験するとともに、そのプロセスを考えるよい機会になったと思われます。一方で、オンラインで英語を用いても、塾生とのコミニュケーションや議論を行うことがわかりました。今後は、このやり方での活動を進める予定です。
2020-12-01
専門基礎研究塾 有機化学分野 塾生の辞令交付
12月1日付で、専門基礎研究塾 有機化学分野に新たに塾生1名(Ambara Rachmat PRADIPTA助教)が入塾しました。Ambara 助教には、鈴木啓介塾長から入塾証が授与されました。
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2020-11-18,19,24
広域基礎研究塾 2020年度第3期生 研究テーマ設定発表会
2020年11月18日10時00分~12時00分に大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルーム、11月19日10時00分~12時00分にすずかけ台キャンパスS2棟第1会議室、11月24日13時30分~16時00分にすずかけ台キャンパスS2棟第1会議室にて、広域基礎研究塾の2020年度3期生15名による研究テーマ設定発表会を開催しました。この発表会では、これまでの広域基礎研究塾の活動を通じて得た体験も踏まえ、研究エフォート率を高めた状態で熟慮した自分自身の研究構想について、専門分野以外の研究者にも分かり易く10分間で発表し、10分間で質疑応答する形式を取りました。「研究分野紹介発表会」で得た他の塾生の研究との接点から着想を得た内容、「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」で共に語った未来社会シナリオの実現を起点に据えたテーマ、「西森先生を囲む会」で伺った西森先生のメッセージに端を発する切り口など、広域基礎研究塾の活動から得た気づきを発展させた発表が大半を占めました。そのためか、質疑側から出された合計70の質問は、互いに興味を高め合おうとする主旨の発言が殆どであり、また、発表者側の回答の発想が豊かなことも相まって非常に聴きごたえがあり、印象深いものとなりました。今期は、コロナ禍で授業時間が多かった中であったにもかかわらず、自分自身の研究スタンスを貫く上で異分野融合や新たに得た発想を積極的に活かして行こうとする強い意気込みを、皆で共有できた発表会であったと思います。今後、それぞれの塾生の研究構想が、各々の専門分野の先輩・同僚との議論を通じて更にブラッシュアップされ、様々な協力者との連携を経て結実することを祈念します。本発表会の終了後には、修了証授与式を執り行いました。
なお、広域基礎研究塾では昨年度に続き、本年度も新研究挑戦奨励金の募集を開始しました。本奨励金は、国立大学改革強化推進補助金を財源とし、塾生が新たに設定した研究テーマへの挑戦を支援するために創設されたものです。塾生全員に広域基礎研究塾の活動の中で練り上げた挑戦的な研究テーマ提案を期待しています。広域基礎研究塾の担当教員による審査を経て12月から支給される予定です。
発表風景
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2020-11-10
東工大ニュース:水分摂取を抑制する脳内メカニズムを解明
専門基礎研究塾 細胞科学分野の松田隆志特任助教らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニットの松田隆志特任助教、野田昌晴特任教授らの研究グループは、脳内の脳弓下器官(SFO)においてコレシストキニン(CCK)を分泌する神経細胞(CCK作動性ニューロン;以下CCKニューロン)を同定し、このCCKニューロンが活性化することで飲水行動が抑制されることを初めて明らかにした。
また、CCKニューロンは、体液のナトリウムイオン(Na+)濃度の低下に応じて持続的に活性化する集団と、飲水行動に反応して一過性に活性化する集団の2種類が存在することを発見した。
本研究グループはこれまでにSFOにおいて飲水行動の誘導をつかさどる神経細胞(水ニューロン)および、その神経回路を明らかにしている。今回の研究成果は水ニューロンの活動が調節されるメカニズムを初めて解明したものであり、口渇感(こうかつかん)の異常に由来する水中毒や多飲症など、過剰な水分摂取により誘発される疾患の治療や予防法の確立に貢献するものと期待される。
本研究成果は英国の科学誌『Nature Communications(ネイチャー コミュニケーションズ)』に11月10日に公開された。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-11-9
広域基礎研究塾 2020年度「西森先生を囲む会」
2020年11月9日15:00~17:00に、広域基礎研究塾では「西森先生を囲む会」を開催しました。この会の目的は、世界的に著名な研究者から、ご自身の半生や研究ヒストリー、若手研究者への想い等、普段聞くことが出来ない話題をご提供頂き、聴衆となる広域塾生が、講演や質疑応答の中から新たな研究目標を構築するためのヒントや研究推進への活力を得ると共に、キャリアパス構築に役立てることにあります。
今回は、基礎研究機構の専門基礎研究塾(量子コンピューティング分野)の塾長である西森秀稔特任教授をお招きし、ご講演頂きました。本年度採択の塾生15名の内、授業等でやむを得ず不参加の7名を除く8名が参加しました。西森先生からは、高校・大学時代の過ごし方、PD時代の奮闘,研究の転換期とその背景、研究の進展に伴う社会との向き合い方の変化など、多岐に渡る貴重なメッセージを頂戴しました。塾生は終始強い興味を示しながら西森先生のお話を拝聴し、質疑応答のセッションでは、塾生からのさまざまな質問に対して西森先生が一つ一つ丁寧にご回答されていたのが印象に残りました。
今回はコロナ禍のため交流会を開催できず、残念でなりません。以下に、西森先生からのメッセージのごく一部ではありますが、幾つかをご紹介します。
- ・若い時は、一人で学び、群をつくらず一人で考えるのが好きでした。
- ・後で振り返ると,鈴木先生のもとで4年生の時に取り組んだ研究テーマには正答がありませんでした。研究とは答えがあるのか無いのか解らないことを、どのように取り扱うのかを考えることだと思います。そうした題材を研究人生の最初に扱ったことは、良い経験だったと思います。
- ・1年任期でカーネギーメロン大学にポスドクに行きました。しかし着任後直ぐに次のポジションを探す羽目になりました。渡米前に米国のポスドク事情をよく理解していなかったからで、今では恐くて出来ませんが,当時は出来たのですね。結婚もしていたのですけれど。その後ラトガーズ大学に移り1.5年間を過ごした後に、東工大に着任しました。
- ・言葉は重要です。量子アニーリングという手法は、当初、「量子断熱コンピューティング」という言い方をされていましたが、これは英語でも言いにくい。当時、統計力学で扱っていたシミュレーテッドアニーリングという言葉を参考にして「量子アニーリング」と命名したら、米国の研究者もこちらの方が言いやすいということになり、量子アニーリングという呼び名が定着しました。
- ・米国や中国では年間数千億円を量子コンピューティング研究に投じています。民生と軍事のデュアルユース領域の研究であるため、これだけの投資が可能となっており、日本の学術界の状況とはかなり異なっています。人材育成でも、米国では副専攻で量子力学を学ぶ人は多いのに対して、日本では量子コンピューティングの分野でも量子力学を学ぶ人は殆どいません。学際領域の知識を柔軟に吸収していかないと、問題解決には近づけません。
- ・好きなことをしたければ、それを実現するために必要な事柄は少なくとも言葉にして準備することが重要です。好きなことを中心に置かないとうまく行きませんが、好きなことだけを並べても折り合いは付けにくいと思います。そして折り合いの付け方はしっかり学ぶべきだと思います。
- ・コンピュータサイエンスでは、どんなに先の時代でも良いので、自分の研究は国民に役立つと説明する必要があります。量子コンピューターも人のためにならないと意味がないので,「こんな課題の計算に有用ですよ」と示すことが求められます。
- 最後に,MIT Technology Reviewから以下を紹介します。
- 質問者: Innovators Under 35 Japanに関心を持つ若い人たちに、先生からひと言メッセージをお願いします。
- 西森先生: 私のような年配の人間が何を言っても気にするな、ということでしょうか。もう、好きにやってくれと。
- 質問者: それは何たる論理矛盾(笑)。
- 西森先生: ええ。でも「気にするな」ということだけは、気にしてほしいですね。
集合写真
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2020-10-29
広域基礎研究塾 2020年度第3期生「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」
2020年10月29日(木)14時00分~17時15分に、広域基礎研究塾の2020年度3期生への本ワークショップを、本学の未来社会DESIGN機構と基礎研究機構との共催で行いました。コロナウイルス禍のため、オンライン会議システムZoomによる対話と、仮想付箋システムMIROによるグループワークを用いました。本ワークショップでは、塾生個々の研究を俯瞰的に見つめ直す機会を提供し、自身の研究内容と未来社会との繋がりについて新たな気付きを促すことを目的としています。今回は、例示された「未来シナリオ」を基に、コロナ禍の課題を克服し、豊かな未来社会を実現するためにどんな研究や変化が必要かを考えてもらうことを通じて、俯瞰力、創造力、他者と協働する力を養成することを企図しました。
ギャラリービュー
ワークショップは次のように進行しました。久堀機構長からのご挨拶、広域基礎研究塾の大竹塾長からの本ワークショップの趣旨の説明後に、未来社会DESIGN機構の新田上席URAから具体的な作業の説明がありました。11名の塾生は3つのグループに分かれ、まずは、氏名、所属、研究内容、「コロナ禍で気づいた意外に良かったこと」を一人1分間で自己紹介しました。グループワークの最初の作業として、コロナ禍で「解決すべき課題」を一人5つ程度提案し、グループ内で共有した後にKJ法を使って課題を分類し、グループとして課題を1つに絞り込みました。各グループの代表がグループテーマの概要を発表し、質疑応答を通じて全員に共有しました。グループワークの次の作業として、各グループで決めた解決すべき課題に、予め与えられた5つの未来シナリオの内の1つを組み合わせ、未来における製品やサービスを各グループでの「新たな解決策」として検討しました。ここでは、費用や時間の制限を設けず、自由な発想で議論を交わすことに集中しました。グループワークの最後として、新たな解決策を様々な「科学技術要素」に分解し、メンバー個人の研究対象が各要素の問題解決にどのように貢献できるかを検討しました。それらの関係性や時間軸、実現に必要な社会環境の整備についても議論しました。最後に、各グループの代表が「新たな解決策」の詳細について発表し、質疑応答・意見交換を行いました。なお、各塾生にはワークショップ終了後に本ワークショップ体験に関するWebアンケートを実施しました。
仮想付箋システムを利用したディスカッション
ループの代表が「新たな解決策」の詳細について発表し、質疑応答・意見交換を行いました。なお、各塾生にはワークショップ終了後に本ワークショップ体験に関するWebアンケートを実施しました。
ワークショップに参加した塾生は、最初こそ慣れないオンラインワークショップに戸惑いを見せていましたが、ツールの使用方法に慣れ、アイディア出しからディスカッションに進むにつれて盛り上がり、ラストの発表時には若手研究者らしく鋭い質疑応答を繰り広げました。開催者としては、ワークショップ終了後の交流会がコロナ禍により開催できなかったことが心残りであり、近い将来に是非開催できればと考える次第です。
ディスカッションまとめ(PPT記入)
2020-10-28
広域基礎研究塾 2020年度第3期生 研究分野紹介発表会
2020年10月23日 9時30分~16時に、広域基礎研究塾の2020年度3期生15名による研究分野紹介発表会を、オンライン会議システムにより開催しました。ここでは、各塾生が自分自身のこれまでの研究テーマについて専門分野以外の研究者に分かり易く7分間で発表し、12分間で質疑応答する形式を取り、塾生が互いの研究内容を知り、コミュニケーションを深めることを目的としています。異分野交流に特有な課題として、発表者は自分自身の研究における興味やスタンスを専門外の相手に伝えることの難しさやもどかしさをどのように克服するのか、が挙げられます。また、聴衆は発表者の意図を理解しながら自分の意見を伝えるにはどのように発言すればいいのか、どのような角度から質問するのが適切なのかという課題も存在します。ここでは、参加者全員が質問に立ち、合計85もの質疑応答が活発に繰り広げられ、コロナ禍に負けることなく、上記課題についての貴重な体験を参加者全員で共有できたと思います。
2020-10-26
専門基礎研究塾 有機化学分野 鈴木啓介栄誉教授が第61回藤原賞を受賞
有機化学分野の鈴木啓介栄誉教授が2020年の第61回藤原賞を受賞し、贈呈式が8月27日、学士会館(東京都千代田区)で行われました。
受賞した研究項目:高次構造天然有機化合物の全合成に関する研究
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-10-13
東工大ニュース:西原秀典助教が2020年日本進化学会研究奨励賞を受賞
専門基礎研究塾 細胞科学分野の西原秀典助教が、2020年日本進化学会研究奨励賞を受賞しました。
研究題目:哺乳類の転移因子に関するゲノム進化学的研究
西原助教は哺乳類をはじめとする脊椎動物のゲノム解析を通し、多くの転移因子がエンハンサーとして働き遺伝子の機能進化に寄与してきたことを示しました。これにより従来はゲノム内を高頻度に転移する有害因子と考えられていた転移因子の進化学的意義に脚光を浴びせ、その概念の転換に大きく貢献してきました。これらの業績が高く評価されるとともに、今後のゲノム進化研究において更なる発展が期待され、研究奨励賞の授与に繋がりました。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-10-12
広域基礎研究塾 2020年度3期生オリエンテーションを開催しました
基礎研究機構広域基礎研究塾では、2020年9月30日に大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルームで、翌10月1日にすずかけ台キャンパスS2棟第1会議室で、それぞれ2020年度3期生のオリエンテーションを開催致しました。3期生15名の内、6名が大岡山で、9名がすずかけ台でそれぞれ出席し、入塾証が授与されました。オリエンテーションの式次第は以下の通りです。
- ・アジェンダの説明(伊能副機構長)
- ・広域塾の目的と活動内容(大竹塾長)
- ・広域基礎研究塾スタッフの自己紹介
- ・塾生自己紹介
- ・入塾証授与式(大竹塾長)
- ・誓約書の署名について(伊能副機構長)
- ・発表スライドについて(伊能副機構長)
- ・研修期間外のイベント
- ・質疑応答
大竹塾長の話:
東工大が皆さんに何を求めて基礎研究塾を設置したのか、なぜ皆さんに入塾してもらったのか、について説明したいと考えています。東工大は指定国立大学法人に指定され、教育・研究・社会貢献の中核大学としての責任を果たしていくことになりました。研究については、ガバナンスを強化し、外部から研究資金を導入し、基礎研究に還元していくのが東工大の基本的な構想としています。また、東工大の強みとして3つの重点分野と3つの戦略分野を設けて取り進めていくことや、社会とのつながりの中で科学技術のファシリテーターとして未来社会デザイン機構を設置することも大切です。これらの構想の一環として、本学は世界の第一線で活躍する基礎研究者を育成するための基礎研究機構を設置しました。これに加えて、今春から全世界を席巻している新型コロナウイルスによる甚大な社会への影響に即応することも重要な社会貢献と捉え、科学技術創成研究院では本年6月に脱コロナ禍研究プロジェクトを発足させ、全学に参加を呼びかけています。
平成26年度の文部科学省の調査では、助教の場合に研究エフォートは6割と言われています。専門基礎研究塾ではこれを9割にするため、人、資金、スペース等のリソースを投じて、基礎研究に没頭できるようにしようとしています。また、広域基礎研究塾でも3カ月間ではありますが、やはり研究エフォートを9割に上げ、今後の研究テーマを真摯に考えてもらいたいと考えています。そのため、広域塾の活動は必要最小限に絞り、皆さんの時間をあまり縛らないこととしました。その一方で、限られた広域塾の活動にはしっかり参加して欲しいと思っています。また、来年1月以降には任意参加の研修セミナーも種々用意します。ここで、入塾期間中の活動として最も重要なことを2つ述べたいと思います。第1に、10年先を見据えた自分自身の研究テーマについて十分に時間をかけて練り上げ、研究テーマ設定発表会でその一端を発表することです。第2に、今後の研究に臨むために大切な人的ネットワークを築いていくことです。昨年度の第1期生、第2期生では、広域基礎研究塾を修了後に継続して交流会を開催するだけでなく、互いの得意分野を活かした異分野融合の共同研究を開始し、競争的資金獲得に向けて活動しているグループも既に複数生まれています。若手研究者育成の観点から、論文数等も継続調査の対象にはしますが、より重要なこととしてチャレンジングな研究に立ち向かう姿勢が必要と考え、異分野への挑戦や異分野融合を形にしていく行動を評価したいと考えています。
この3カ月の間が、塾生の皆さんにとって将来の研究テーマを考える貴重な秋になるよう、皆さんを支え、共に楽しく過ごして行きたいと考えています。広域基礎研究塾の塾生としての誇りをもち、研鑽に励んでください。
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2020-9-10
東工大ニュース:量子アニーリング装置による量子シミュレーションを実行
専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野の坂東優樹研究員らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
量子コンピュータの理論は、理想的な動作をする量子ビットを想定して構成されている。しかし、今回の量子シミュレーションにおいては、実際には理想的な状況とは異なる動作をしている明確な証拠が見つかり、その影響を考慮して結果を解析する必要性が明らかになった。また、欠陥の数の統計分布に関する最近の非平衡量子統計力学理論も理想的な量子ビットを前提としているが、理想的な状況から乖離した実験条件下でもその理論が成立していることが見出された。理想的な条件で導出された理論がその条件が満たされない場合にも成立することを、量子コンピュータを用いて発見した世界初の例といえる。
今回の研究成果は量子アニーリング型量子コンピュータの実験装置としての有用性を示したものであり、高速性にのみ注目が集まりがちな量子コンピュータの研究開発の今後の方向性に多大な影響を与えるものと期待される。
この研究は東京工業大学 科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニットの坂東優樹研究員、須佐友紀研究員(現NEC)、西森秀稔特任教授らと、東北大学、埼玉医科大学、ドネスチア国際物理学研究センター(スペイン)、南カリフォルニア大学(米国)との共同研究で、米国時間9月8日付けで米国物理学会が発行するPhysical Review Research(フィジカル・レビュー・リサーチ)誌に論文が掲載された。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-8-21
東工大ニュース:同一の細胞から複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術開発に成功
専門基礎研究塾 細胞科学分野の半田哲也特任助教らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
少数の細胞からエピゲノム情報を取得できる「クロマチン挿入標識(Chromatin Integration Labeling: ChIL)法」に関する詳細な実験手法を発表しました。さらに、これまでの解析ではひとつのサンプルでは単一のエピゲノム情報しか取得できませんでしたが、今回、同一サンプルから複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術(Multi-target ChIL: mtChIL)の開発にも成功しました。
本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Protocols」で公開されました。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-7-17
専門基礎研究塾 有機化学分野 塾生の辞令交付
コロナ禍で遅れていた 基礎研究機構 専門基礎研究塾 有機化学分野の入塾式について、7月17日に行われ、鈴木塾長から、塾生2名に入塾証が授与されました。
塾生:安藤 吉勇
塾生:Betkekar Vipul Vithal
(注意喚起をしたうえでマスクを外して撮影しています)
2020-7-6
東工大ニュース:相同なDNA配列間でRad51リコンビナーゼによるDNA鎖を交換するしくみを解明
専門基礎研究塾 細胞科学分野の伊藤健太郎研究員らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
相同組換えは、DNA二重鎖切断を正確に修復する生理機能であり、遺伝情報の維持や遺伝的多様性の創出にかかわる重要な生命現象である。その中心であるDNA鎖交換反応では、似た配列、すなわち、相同な配列を持つ2組のDNA間で鎖を交換する。この反応はRad51リコンビナーゼによって触媒されることが知られているが、Rad51リコンビナーゼが相同配列を見つけてDNA鎖を交換するしくみは不明であった。
今回の研究では、DNA鎖交換反応をリアルタイムで観察し、Rad51リコンビナーゼがDNA鎖を交換する反応過程の詳細を明らかにした。さらに、その反応の実際の分子構造をシミュレーションすることに世界で初めて成功した。今回の成果により、相同組換えによるヒトがん抑制の分子機構研究にさらに弾みがつくことが期待される。
この成果は、6月11日付けの『Nature Communications』に掲載された。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-6-24
東工大ニュース:相同組換えを活性化するメカニズムを解明
専門基礎研究塾 細胞科学分野の坪内英生助教らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
坪内助教らは相同組換えタンパク質であるDmc1が生体内で機能するために必要な二種類の補助因子Swi5-Sfr1とHop2-Mnd1に着目し、これらのタンパク質を大腸菌で発現・精製し、Dmc1によるDNA鎖交換反応を試験管内で再構成した。その結果、Swi5-Sfr1とHop2-Mnd1は全く異なる機構でDmc1を活性化しており、この二つの補助因子が段階的に互いを補う様にDmc1のDNA鎖交換反応を促進することを明らかにした。
相同組換えは生物学的に極めて普遍性の高い重要な機構だが、いわゆるゲノム編集技術が生体内の相同組換え機構を巧みに利用することによって実現されていることから、相同組換えを効率化するメカニズムを解明することは医学的にも大変重要と考えられる。
本研究成果は、2020年5月15日付の「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」の電子版に掲載された。
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-5-27
広域基礎研究塾 2019年度「新研究挑戦奨励金」 報告
2019年4月に発足した基礎研究機構広域基礎研究塾(広域塾)には、第1期生 16名、第2期生 13名が入塾し、入塾期間3か月の間に自身の専門の先の先を観た研究テーマや、他の塾生と共創して未来社会との繋がりを意識した研究テーマを練るなど研鑽を積んできました。しかし、専門基礎研究塾の塾生と異なり、広域塾生は3か月の入塾期間が終了すると、通常の系・研究室業務に戻るため、新しい研究テーマを実施するための予算は存在しませんでした。そこで、広域塾生が練り上げた挑戦的な新テーマを実施段階に移し、若手研究者の活性化と本学の長期的な研究力向上に資することを目的として、執行部、担当事務の方々の賛同と暖かい支援を得て、2019年10月に国立大学改革強化推進補助金を財源とした「新研究挑戦奨励金」を創設しました。
今年度の広域塾生に対して挑戦的な新研究テーマを募集したところ、募集期間2週間という短期間にも関わらず25件の応募が集まりました。この内、異分野も含めた塾生がチームを組んで行う研究テーマが6件提案されたのは特筆に値します。実際の奨励金の用途としては、実験等研究に際して使用する物品関係に多く利用されました。これらの研究への支援は今年度のみとなりますが、多くの塾生たちが、この挑戦的萌芽を今後に生かせるよう、基礎研究機構は、長い目でその成長を応援していきたいと考えております。
関係各位におかれましても、若手教員の挑戦への後押し、そして暖かいご支援ご協力をいただけますようよろしくお願いいたします。
2020-5-27
広域基礎研究塾 2019年度 研修後アンケート報告
基礎研究機構広域基礎研究塾(広域塾)の第1期生(16名)、第2期生(13名)に対して3か月の研修後にそれぞれ無記名でアンケートを行いました。
調査項目は大きく分けて以下の5項目です。(1)研修会の効果、(2)研究に費やせる時間、(3)塾生間のネットワーク形成、(4)印象に残った研修会イベント、(5)自由記述。アンケート回収率は1期生、2期生合わせて93%でした。
最初の調査項目、研修会の効果は概ね肯定的でした。特に異分野研究の交流に関して、貴重な機会、刺激になった、違う角度からの意見をもらった、などの声が多く聞かれました。それに関連して、塾生間のネットワークに対しても、長期的な関係性を構築したい、歴代の塾生間でも議論できるようにしてほしいなど、異分野に亘る新しい人脈・視野を広げたいという意欲的な希望も出ています。研究に費やせる時間については、20%~90%と研究室間で大きな差異があることがわかり、全体的に研修中のエフォートの調整が非常に難しかったという意見が多く聞かれました。印象に残った研修会イベントとしては「大隅先生を囲む会」が一番でした。一流の研究者からのお話は、これまでの塾生自身の研究を見直し、将来的な研究テーマを考える上で大きな影響を与えたことが自由記述からも伺えました。自由記述には厳しい意見も少数含まれていましたが、これも真摯に受け止め、今後の広域塾がより良い塾として成長していけるよう1つ1つを課題にして改善していく所存です。
2020-5-1
東工大ニュース:Helping a Helper: Uncovering How Different Proteins Cooperate in DNA Repair
専門基礎研究塾 細胞科学分野のARGUNHAN BILGE 特任助教、伊藤 健太郎 研究員、金丸 周司 助教、坪内 英生 助教らの研究内容が、東工大ニュースに掲載されました。
DNA is critical for life as we know it. Ensuring that DNA is kept in a stable state is therefore important in all organisms. Although DNA faces a plethora of assaults on a daily basis, most of this damage is inconsequential due to the actions of proteins that efficiently repair broken DNA. Researchers at Tokyo Tech and Yokohama City University (YCU) collaborated to understand the interplay between these different DNA repair proteins.
詳細は、東工大ニュースをご覧ください。
2020-4-1
専門基礎研究塾有機化学分野設置
基礎研究機構専門基礎研究塾に新たに有機化学分野(鈴木啓介塾長)を設置し、2名の塾生が入塾しました。なお入塾証授与は改めて行われます。
2020-4-1
細胞科学分野新規入塾
基礎研究機構専門基礎研究塾細胞科学分野に新たに3名の塾生が入塾しました。なお入塾証授与は改めて行われます。
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