基礎研究機構

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2019-6-13
基礎研究機構オープニングセレモニー 実施報告

去る2019年5月24日の15時45分から、本学すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールにおいて、基礎研究機構のオープニングセレモニーを開催しました。益学長、理事・副学長、幹事、部局長、事務部課長、並びに本機構の関係者のみならず、マスコミ各社にも参加頂き、総数100名を超す盛況な催しとなりました。
開会の辞: 小山二三夫 機構長
基礎研究機構は、卓越した若手研究者の育成を目的として昨年度に文科省の支援を受けて設立致しました。本機構には、傑出した若手研究者に研鑽を積んでもらう専門基礎研究塾と、本学の新任助教を対象として3ヶ月間新たな研究領域をじっくり考えてもらう広域基礎研究塾の2つの形態があり、本年4月から本格的に活動を開始し、本日オープニングセレモニーの開催に至りました。
挨拶: 益一哉 学長
本日は本学の基礎研究機構オープニングセレモニーにご参加頂き、ありがとうございます。特に、マスコミ各社にご列席頂きましたこと、心から御礼申し上げます。
2年ほど前、本学の指定国立大学法人の構想をまとめるに当たり、最先端科学技術を担う若手研究者を育成するには、具体的かつ持続的な仕組みが不可欠であることを強く感じました。また、同じ頃に本学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞され、基礎研究に没頭できる環境を大学が提供することや、基礎研究を文化として支援する社会の成熟が求められることを訴えられたことは、皆様方の記憶にも新しいと思います。
このほど、文部科学省のご理解・ご支援も頂き、若手研究者が基礎研究に没頭できる枠組みとして、基礎研究機構を発足させることができたことは、本学にとって極めて有意義かつ喜ばしいことであります。本機構における2つの異なるアプローチ、即ち、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の試みが、これからどのような展開を見せるのか、機構長、各塾長を始めとする本機構関係者には、益々のご尽力をお願い致します。また、塾生の皆さんそれぞれが、我が国の科学技術の将来を背負って立つ人材として大いにご活躍されることを、大いに期待しております。さらに、本日ご参加頂きました皆様方には、本機構のこれからの活動を様々な方面からご支援を賜りますようお願い申し上げます。
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基礎研究機構の概要説明: 大竹尚登 広域基礎専門塾長
昨年3月に指定国立大学に指定されました本学における基礎研究機構の立ち位置をご説明します。科学技術の最前線で、基礎研究と社会実装とが両輪の如く連携して動くのが本学の研究の特徴であり、社会実装での成果を、大学ガバナンスを経て基礎研究にvフィードバックし、若手の基礎研究者を育成することが肝要です。そのために、若手研究者の研究エフォートを6割から9割に増加させ、自己の興味に基づく研究に没頭することを目指します。専門基礎研究塾では塾生が数年間じっくりと研究課題に取り組む環境を、広域基礎研究塾では3ヶ月と短い期間ではありますが、様々な研究分野の若手研究者が一堂に会して自分の将来の研究テーマを考える機会を、それぞれ与えたいと考えております。
ところで、文科省からは、大学における3つの危機、即ち、研究費・研究時間、研究環境、研究拠点の劣化、が問われています。研究費については、本学では大隅良典基礎研究支援が先日立ち上がり、6名の若手研究者への支援を行っています。一方で、研究時間や研究環境は大学全体で真摯に取り組むべき事象であり、基礎研究機構では(1)研究時間の確保、(2)自由な発想に基づく研究を推進する環境、(3)トップレベルの研究者が集う環境、の3つの課題に取り組むことにしました。(1)研究時間の確保としては、研究エフォート9割の確保と、オープンラボの設置や事務・技術支援の充実を図ります。(2)自由な発想に基づく研究を推進する環境としては、独創性・着想性に基づく研究者評価と、自分の研究テーマをじっくり考え実行する時間と場の提供を図ります。(3)トップレベルの研究者が集う環境としては、科学と技術が両輪となることを熟知しているトップレベルの研究者の背中を見て、若手研究者が自分もそうなりたいと思えるような場の提供を図っていきます。
基礎研究機構では2つの異なる塾を運営します。専門基礎研究塾は専門性が極めて高い分野での若手研究者の育成機関です。昨年10月に大隅良典栄誉教授を塾長とする細胞科学の専門基礎研究塾が立ち上がり、現在塾生は14名です。また、本年4月に西森秀稔教授を塾長とする量子コンピューティングの専門基礎研究塾が塾生2名で立ち上がりました。一方、広域基礎研究塾は専門を限らずに3ヶ月間で自分自身の研究テーマを考える場であり、各学院の新任教員を対象としています。本年度は29名が塾生として参加することになりました。ここでは、大隅良典栄誉教授を囲む会や自身の研究と未来社会との繋がりを考えるワークショップを通じて、自身の研究テーマを熟考するまたとない機会を提供します。基礎研究機構での研鑽を通じて,若手の皆さんが研究者として大きく羽ばたいてほしいと思います。
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基礎研究の重要性: 大隅良典 専門基礎研究塾長
効率ばかりが大事に捉えられた現在の社会では、基礎研究は軽視されます。選択と集中から研究費獲得が難しくなり、出口指向の研究への傾倒が生じています。日本の大学では、これまで大学院博士課程の学生が基礎研究力を支えていましたが、学生のマインド低下により、博士課程大学院生のなり手が減少し、危機的な状況となっています。また、チャレンジングな研究よりも必ず結果が見える課題に向かうようにもなっています。学生は早く専門家になりたがる一方で、企業は強い閉塞感に苛まれているのが、日本の人材育成システムの問題点となっています。一方、ここ数年で諸外国を訪問して感じたことは、スイス、ドイツでは意欲的な若者との交流、米国では研究者のとの会話、英国では素晴らしいコアファシリティ、中国ではスピード感あふれる建設や若い世代のエネルギー、等が挙げられます。
専門基礎研究塾では、将来を担う卓越した研究者を育成することを目指します。落ち着いた研究環境の中で、若手研究者が自分の学術的興味から細胞科学の研究課題を見出し、仮説の立案と検証を行えるかどうか、基礎研究機構の関係者に課せられた大きな課題であると思います。本塾の使命として、下記を挙げさせて頂きます。
(1)交流の楽しさ、重要性
互いの研究を理解し、尊重する努力。優れた研究に接する機会、違った考え方・アプローチを学ぶ。他人の仕事に興味を持ち、良い仕事を喜び、たたえる姿勢。
(2)研究者を活かす研究組織
若手が自由に研究できる環境。共通設備の充実と利用しやすいシステム。高度な技術者による支援体制の構築。各自の透徹した好奇心、新しい共同研究の創出。AI時代に将来の研究者として問われる資質。
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量子コンピューティングの面白さ-不思議が役に立つ-: 西森秀稔 専門基礎研究塾長
中国のある企業を昨日訪問しました。会長は私と同年代と思いますが、経営幹部の殆どが40歳台で非常に前向きで、「若い人の力を伸ばすことが大切。基礎研究はオープンイノベーションの根源であり大学の役割。」と明言していました。
元東京大学総長の有馬朗人先生が、数学オリンピックを目指す中高生を集めた講演会を先日催され、大隅良典先生と私も参加しました。そこで量子を説明した時の話をご紹介します。量子コンピューティングとは量子力学の応用です。マクロな世界では波の性質と粒子の性質が明確に分かれていますが、量子の世界では、波と粒子の性質が同時に現れます。例えば、電子には大きさは無いが、質量と電荷を持つので、その意味では粒子です。ところが、電子銃からスリットを通して電子を1つずつ打ち続けると、暫くすると干渉縞が見えてくるので、その意味では波です。電子は自転しています。回転方向には右回りと左回りの2つの状態ありますが、1つの電子は2つの状態を同時にとることができます。これを応用したのが、量子コンピューティングです。超伝導状態では、回路上で電流は電圧をかけなくても勝手に流れますが、これには右回りと左回りが同時に存在するので、これで1ビットが表現できます。回路で40ビットを表現できれば、1兆の状態を記述したことになります。ここから必要な情報を取り出せればコンピュータとして機能することになります。その1つの方法が量子アニーリングと呼ばれ、既に実用化されつつあり、巡回セールスマン問題のような最適化では極めて短時間で解を導き出すことができます。応用例の1つを紹介すると、東北大学の量子アニーリング研究開発センターの大関准教授は、津波からの避難経路の最適解を量子アニーリングによりシミュレーションしています。
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専門基礎研究塾生からの研究紹介: 堀江朋子 助教

event06_1オートファジーの研究には、遺伝学的アプローチと生化学的アプローチがあります。前者では大隅良典先生のご研究、即ち、atg変異体スクリーニングの結果、Atg蛋白質の同定と機能解析が行われ、これがノーベル賞受賞につながった、というめざましい成果が得られています。一方、後者は大隅先生が酵母でオートファジーの現象を見出してから27年間殆ど進展がありませんでした。最近、質量分析装置の発展によってプロテオーム、リピドーム、メタボロームの各種解析ができるようになりつつあり、この領域を私自身の研究分野として活動しています。

専門基礎研究塾生からの研究紹介: 坂東優樹 研究員

event06_2量子アニーリングではハミルトニアンを有限時間(アニーリングタイム)で発展させたイジングハミルトニアンを解きます。アニーリングタイムは基底状態と励起状態とのエネルギーギャップに依存し、エネルギーギャップは材料の相転移で生じることが分かっています。エネルギーギャップが小さい一次相転移ではアニーリングタイムが増大するため量子アニーリングには好ましくありません。そこで私は、エネルギーギャップが大きい二次相転移となるような研究に取り組んでいます。

閉会の辞: 伊能教夫 副機構長
本日はお忙しい中ご出席頂き、有り難うございました。また、講師の方々にはご講演頂き、有り難うございました。基礎研究機構は、組織的には専門基礎研究塾と広域基礎専門塾の2本柱があり、それぞれの立場から人材を育成していく場として発足致しました。若手研究者が長期的視点に立って独創的な研究ができる環境は、日本の基礎研究の将来にとって重要であることは言うまでもありません。このような研究環境を作り上げ、結果を出すには時間がかかります。是非、皆様方の暖かいご支援とご理解をお願いしたいと考えております。
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記者会見と塾生ポスター発表・交流会
セレモニー終了後、益学長、大隅塾長、西森塾長、大竹塾長と、マスコミ各社との間での質疑応答が約30分間行われました。その後、S1棟1階のオープンスペースに会場を変え、18時から塾生ポスター発表会並びに交流会が開催されました。こちらも60名を超す方々にご参加頂き、発表ポスター21件を前にして熱心な討論が繰り広げられると共に、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来についての熱い議論で盛り上がりました。
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