2018.01.19
ボルボックスの鞭毛が機能分化していることを発見
ボルボックスのゾンビ化実験で判明
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の植木紀子研究員(現・ニューヨーク市立大学ブルックリン校上級研究員・ロックフェラー大学客員研究員)と若林憲一准教授は、多細胞緑藻であるボルボックスが、走光性や光驚動反応などの光に対する行動を示すために、球形の体の前端部から後端部にかけて鞭毛の性質を変えていることを発見した。
ボルボックスは鞭毛を使って水中を泳ぐ生物で、近縁の単細胞緑藻クラミドモナスに似た祖先生物の多細胞化によって進化したと考えられている。
約2億年前という比較的「最近」分岐したことや、祖先種に近いクラミドモナスが現存していることから、ボルボックスは多細胞化進化の研究の良い材料になっている。ボルボックスの約5,000個の細胞間には情報のやりとりが無いにも関わらず、個体として調和のとれた光行動を示す。
今回、この原理を明らかにするために鞭毛の性質を探ったところ、鞭毛は細胞の光受容に伴うCa2+(カルシウムイオン)の流入によって運動方向を変化させること、さらに、球のような体の前端部から後端部にかけて、その方向変化の角度が180度から0度まで変化することを突き止めた。ボルボックスは、個体前後で鞭毛の機能を変化させることで、前半球を舵取り、後半球を推進専門にと役割分担させ、巨大な体でも効率的な光行動を示すと考えられる。
この手法では、ボルボックスを界面活性剤処理で形態を保ったまま除膜する。この段階でボルボックスは死に、鞭毛が停止して動かなくなる。ここにATPを添加すると、個体は死んでいるのにも関わらず鞭毛が再び運動を開始して泳ぎだす。この手法は、単細胞生物や多細胞生物から取り出した器官でよく用いられる方法だが、多細胞生物個体まるごとを用いて成功したのは初めてであり、他の多細胞生物の運動メカニズムの検証にも適用できる可能性がある。さらに、鞭毛はヒトの体の様々な器官に生えており、各々は運動調節様式が異なる。この研究成果は、鞭毛運動の異常が原因であるヒトの疾患「原発性不動繊毛症候群」の研究に貢献すると期待される。
この成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に1月8日に掲載された。